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CASE

井の頭公園の観察は日々のルーティン
「編集者の個性」から生まれるユニークな図鑑たち

自然科学系コンテンツ制作のプロフェッショナル「Nature & Science」。第一線で活躍する研究者や学識者とのネットワークを強みに、40年で800冊に及ぶ図鑑制作をはじめ、数多くの書籍や学習コンテンツの企画編集を手がけてきました。その専門性の核心はどこにあるのか? キーワードは「人財」。Nature & Scienceの専門性を支える「個性豊かなスタッフの魅力」をご紹介します。


樹木、野草、キノコ、野鳥——。Nature & Scienceが企画編集を手がける図鑑は多岐にわたります。いずれも人気が高く、なかには14刷まで重版しているものも。2015年にナツメ社から出版された『ぱっと見わけ 観察を楽しむ野鳥図鑑』は、発売当初から18年6月現在まで、同ジャンルの売り上げナンバーワンをひた走っています。本書の編集を手がけたのがNature & Scienceの高野丈。編集者として多くの実績をもつ一方で、自然写真家としても活躍しています。また、自然観察指導員として教育普及の方面でも第一線のプロレベルで活動している人物なのです。

 

ライフワークを仕事に活かす

高野は日頃から、愛好家やアマチュア研究者が参加する自然観察会を指導・ナビゲートしています。こうした現場で得た観察ノウハウや知識、経験が本づくりに活きるといいます。そして家に帰れば、新しく得た知識や湧いてきた疑問についてファクトチェック。学術誌や論文を読んで裏付けをとることも忘れません。こうして毎日の「探求」を仕事でのアウトプットに活かします。

自然観察会のガイドを務めるNature & Scienceの高野丈(左)

図鑑づくりは先人の研究蓄積を参照することに始まりますが、ともすると孫引き的な作業に陥りがち。引用だけでは類書との差別化ができません。しかし高野の場合、観察会の現場で得た知識はもちろん、そこで知遇を得た研究者たちの知見など、類書にはない知識をたくさん吸収する機会をもっています。そういった知識を活かしてできる図鑑だからこそ、他にはないユニークネスをもつのです。

高野が手がけた図鑑の一例/『変形菌』川上新一著、佐藤岳彦写真、技術評論社刊、2017年

鳥類図鑑は「見分けるためのツール」であると同時に、鳥類の愛好家たちが「楽しめるツール」でなければいけません。『ぱっと見わけ 観察を楽しむ野鳥図鑑』には324種の鳥のスペックだけでなく、「時折くるっと振り返るような動作をします」などの豆知識や観察を楽しむためのポイントが散りばめられています。

『ぱっと見わけ 観察を楽しむ野鳥図鑑』樋口広芳監修、石田光史著、ナツメ社、2015年

また、本書の各ページに付いているQRコードをスマートフォンで読み取れば、鳥の鳴き声のサンプルを聴くこともできます。QRを使った同機能は、すでに類書にも実装されていますが、それらの音源が数十種の収録にとどまるのに対して、本書には226種もの鳴き声を収録。本書へのデータ提供に協力してくれたのはNPO法人バードリサーチ。この資料提供もまた、高野の「仕事外」でのコネクションがあってこそ実現したことです。

こうした編集は本の実売に結び付くのはもちろん、マーケットの拡大にも一役買っているといえるでしょう。ユーザーの知的好奇心を刺激する創意工夫は、図鑑を手に取った人をファンに変えます。高野の編集の力点は、買ってもらうための努力ではなく「買いたくなるような魅力」をつくることに置かれているわけです。「鳥が好きになる」「もっと好きになる」しくみが詰まっている。これは他ならぬ高野自身が「筋金入りの鳥類ファン」だからこそできる工夫=編集力だといえるでしょう。教育普及のプロフェッショナルとしての視点が活きた「誰でも楽しめる鳥類図鑑」だからこそ、差別化が難しい図鑑市場においてナンバーワンの売上とユニークな存在感を発揮しているのです。

 

専門性を支える「専門性」、働く人の個性

高野が動植物に興味を持つようになったきっかけは、趣味で始めた写真撮影でした。もともと大学時代から写真を撮りはじめ、写真歴は25年。ストックフォトを扱う会社に入社してからはその機材を借りながら、より高度な写真を撮り始めました。

「いい写真家の作品を見ていると自分も撮ってみたいという気持ちになったんです。気になった写真家さんには、仕事にかこつけて会いに行ったりもしました」と自身を振り返る高野。一流のネイチャーフォトグラファーたちとの交流をきっかけに北海道へ遠征するなど、趣味への情熱はさらに過熱していきました。ここ数年はより日常的に写真を撮ろうと意識を変えて、近所の井の頭公園などに飛来する野鳥に文字通り「フォーカス」しています。

毎日通勤途中に井の頭公園に寄り、自生する植物や飛来する野鳥を観察するのが高野の日課で、カメラと双眼鏡、フィールドノートは欠かさず携帯。確認した鳥や植物はすべてノートに書き出し、シーズン中に初めて見つけたものは写真に収めます。この定点観察をかれこれ14年続けているそうです。「井の頭かんさつ会」「井の頭バードリサーチ」などの自然観察会を主導するかたわら、ゲストスピーカーやレクチャラーとしてネイチャーカフェのトークイベントなどに登壇することも。愛好する自然観察が本づくりに活き、その過程で得た知識がまた自然観察やレクチャーの場で活きる。まさに好循環が実現しています。Nature & Scienceの制作物がマーケットで高い評価を得る背景には、高野自身の「専門性」と「ユニークネス」があるのです。

Photographs by Jo Takano
Text by Mitsuhiro Wakayama

2018/6/27

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