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produced by amana

CASE

「介護男子」から始まる、介護のこれから

アートフォトシーンの第一線を紹介する写真雑誌『IMA』。国内外のアーティストとマーケットをつなぎ、優れた若手写真家を数多く輩出していることで、業界からも高い評価を得ています。そんなIMAのもうひとつの「顔」をご存知でしょうか? 実はアートフォトの専門誌だけでなく、多彩な書籍を手がける企画編集チームでもあります。これまでも写真家に限らず、数多くの異なるジャンルの専門家に寄稿していただいたり、トークイベントに参加していただいたりと、幅広い分野におけるネットワークと独自の編集力を積み重ねてきました。その好例である『介護男子スタディーズ』は、IMAの制作力がクライアントの要望を叶えた一冊でした。


『介護男子スタディーズ』は「介護の現場で働く男性=介護男子」にまつわる論考やエッセイを写真とともに紹介する書籍として、2015年に発売されました。プロジェクトの始まりは、全国20の社会福祉法人からなる団体「介護男子スタディーズプロジェクト」から。本書冒頭の「介護は新しい科学であり、とてもクリエイティブな仕事です」という言葉からも分かるように、従来とは全く異なる視点から介護を捉えることがクライアントの目指すところでした。

ドキュメンタリー「介護のいま」

介護といえば「女性が多い現場」というイメージがあります。その根幹にはケアの現場に求められる、「女性は共感すべき」「感情労働は女性らしい仕事」といったジェンダー観があります。女性は嫁いだ先で舅姑の面倒を見るという守旧的な意識がまだまだ残る一方で、介護の現場においては、入浴や移動の介助など男性の方が利用者に安心感を与えられるという意見もあります。低賃金やワーク・ライフ・バランスなど労働環境に改善すべき点はあるものの、介護職の全国的な需要増と昨今の地元志向も相まって、介護の仕事を志す若者はどんどん増えているといいます。

しかし、まだまだ男性の介護職員は少ないのが実情。介護の仕事は一般に思われているものと違う明るい側面が多々あります。とはいえ、どうしてもネガティブな部分だけが印象付けられてしまう。でも本当は、社会に評価されるべきクリエイティブな仕事。そんな「本当の部分」を知ってもらい、既存のイメージを払拭するために、IMAが提案したのは魅力的なビジュアルと多彩な執筆陣でした。

これまで「〇〇男子」「〇〇女子」と名のつく書籍は巷でたくさん出版されてきました。こうしたキャッチーな新語は、バズワードとしてニッチな業界への社会的関心を高めたという点で功績はあるものの、その実、単なるイケメンや美女の写真集以上のものにならなかった感は否めませんでした。こうした表層的なアプローチでは、業界の実態を深く知ってもらう目的には到達できません。介護男子の日常をもっと知らしめるためには、優れたドキュメンタリー写真の技術が不可欠。

そこでIMAがアサインしたのが、フォトグラファーの高木康行さんでした。高木さんはニューヨークで10年以上欧米の雑誌の仕事を中心に活躍してきた、ドキュメンタリーを軸に、アート作品も発表している写真家です。グローバルでジャーナリスティックな視点とアートの表現力を持った高木さんならではの経験と個性に期待した人選でした。全国津々浦々で働く介護男子の日常を十全に捉えるだけでなく、現場でのコミュニケーションの多様さや些細な機微まで、高木さんの写真は見事に表現しています。

人脈力が支えるコンテンツの質

本書の構成は「介護の現在」と「介護の未来」を考えるふたつのパートから成り立っています。介護について包括的な理解がされていないという世の中の現状に対しては、やはり専門家のテキストが必要です。しかし介護の専門家だけでなく、別視点から介護を語れるアーティストやクリエイターたちを執筆陣に加えたら、介護にまつわる見方はより豊かに広がりをもつのではないか。このアイデアからIMAが依頼した顔ぶれは実に多彩でした。

安藤桃子さん(映画監督)、折元立身さん(現代美術家)、佐々木誠さん(映像ディレクター/映画監督)、森永邦彦さん(ファッションデザイナー)、吉藤健太朗さん(ロボットコミュニケーター)などなど。第一線で活躍する研究者やクリエイターたちが語る「介護のこれから」は、介護のポテンシャルや進化の可能性を示唆する興味深いものばかりになりました。非専門家の意見を受けて「変わっていく未来」があったらおもしろい。クライアントも納得の人選でした。

ロボットコミュニケーターの吉藤健太朗さんは、人と人をつなぐロボット「OriHime」の開発から介護の新たな可能性を示唆した
現代美術家の折元立身さんは、母親の介護を「アートママ」というパフォーマンスアートに落とし込んだ

初版部数は11,000部。取次を通じて販売されたほか、全国の図書館や高校などには無償で提供されました。介護男子スタディーズプロジェクトの活動は本書の刊行を期に本格的に始動し、テレビや雑誌などのメディアにも取り上げられて話題に。執筆者と現役の介護職員、介護男子によるトークイベントも開催され、社会の関心を集めました。ビジュアル、内容、仕様の全てが高いクオリティで実現できたからこその反響でした。

IMAの活動はアートだけではありません。雑誌、アートブックに限らず書誌の出版・編集を手がけるプロフェッショナル集団でもあるのです。そうした技術に加えて、イベントや展覧会のプロデュースからフィニッシュまでワンストップで行うamanaの制作機能も持ち合わせています。確かなクオリティの編集・制作技術、そしてコンテンツを充実させる企画力と人脈力で、IMAは豊かなビジュアルコミュニケーションの可能性を開いていきます。

IMA

Photographs by Yasuyuki Takagi
Text by Mitsuhiro Wakayama

2018/7/4

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