ヒト・コト・ミライが交差する
リアルプレイス │ エイチ

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produced by amana

CASE

『LIVING CULTURE BOOK』を通して世界に伝える、
LIXILのものづくりの原点

2017年3月、ドイツのフランクフルトで開催された住宅設備の国際見本市「ISH(イッシュ)」。そこで手渡された「LIXIL」のLIVING CULTURE BOOKは、訪れた世界各地の関係者から好評を得ました。魅力的なビジュアルと知的好奇心をくすぐる内容と、ラグジュアリーな装丁が印象的なこのブック。アマナのなかで、雑誌だけでなく、写真集、企業のブランドブック、カタログなどを数多く手がけてきた『IMA』編集チームが企画・制作しました。


日本の風土・文化から生まれたLIXILのプロダクト

LIXILは、2011年に国内の主要な建材・住宅設備メーカー5社の合併により誕生し、世界各地にグループ会社をもつグローバル企業です。2015年にはグローエやアメリカン・スタンダードなど欧米のサニタリーメーカーも傘下に収めています。さらなるシェアを獲得するためには、海外での認知度アップが不可欠。そこでLIXILの活動を紹介する全編英語のLIVING CULTURE BOOK』(以下、LCB)制作が発案されました。担当したのは、ラグジュアリーな写真集やブランドブック、オウンドメディアの制作実績を数多く持つ『IMA』編集チーム。

クライアントのテーマは「コーヒーテーブルブックのようなLCB」。カタログとは一線を画し、多彩なビジュアルシークエンスの要所にテキストを配したグラフィカルなLCBが目指されました。そしてもうひとつ、LIXILのものづくりが日本の気候や風土、生活習慣や文化との密接な関係のなかで展開してきたことを紹介するのも今回の依頼の要点でした。

唐突にLIXILの企業理念やプロダクトを紹介しても、異なる文化や風土で生活する諸外国の人々にはなかなか理解しがたいところがあります。例えば、伝統的な木造建築とハイテク建材を架橋するイメージや、トイレやお風呂に導入される凝ったデザインやテクノロジーなど、世界に類を見ないこだわりはどういった文化的背景から来るものなのか、丁寧に説明していく必要があります。

より良い暮らしとより快適なトイレを目指すLIXILが進める技術革新は世界に類を見ない

日本に対する予備知識がない人々が読んでも理解できるよう、まずは「日本の気候・風土」と「生活習慣の近代史」を軸に内容を展開させていくことに。そこにLIXILの活動を織り込むことで、本質的な魅力を知ってもらうことができると考えたのです。

タイル・レンガ・土管などの建築材料にはじまり、トイレ・お風呂・洗面所などの機能的なサニタリーまでLIXILが手がける事業は実に多彩で、そのどれもが日本の近代化に大きく貢献するものでした。例えば、外国人居留地の排水として用いられていた土管は、水路の整備・暗渠(あんきょ)化を実現した市街の近代化の重要な建材であり、同時に農村部における用水路を構成した近代農業の礎でもありました。都市と農村の両方において日本の近代化を支えたのがLIXILのプロダクトだったのです。

日本の近代化を支えた土管は、LIXILの前進INAXを大きく飛躍させた重要な商品だった

火事や台風といった自然災害に悩まされる木造建築をレンガが支え、雑菌が繁殖しやすい高温多湿の風土には吸湿速乾性をもつタイルを使うなど、「清潔」や「衛生」という観念を一般家庭の生活環境から醸成していきました。

INAXミュージアムの「世界のタイル博物館」に収められているタイルコレクションの数々

世界の先端をゆく日本のトイレ。LIXILの前身であるINAXの伊奈輝三社長は、これまで必要最低限の機能空間だったトイレやお風呂を美しく快適な空間へと飛躍させる「第3空間」というコンセプトを打ち出しました。古くは近世、不浄な廁(かわや)を藍染磁器の便器で粋に飾ったことからはじまり、衛生観念の高まりとともに現在のような光沢ある白色とシンプルな形状へと変化していきました。テクノロジーを駆使した現在の日本のシステムトイレは、こうした文化的土壌の上に成立しているのです。こうした風土の特徴、難点、時代の空気を鋭敏に感じ取り、そこにソリューションを提示してきたものこそLIXILのプロダクトなのです。

明治時代の富裕層に流行した染付便器。なかには、「上便所」という客人専用のお手洗いを設ける人もおり、「おもてなし」の精神が日本のものづくりにも生かされていた

企業の魅力を造本が体現する

LIXILというブランドを世界に紹介するブックということもあり、造本もクラフトマンシップが活きた贅沢なものに仕上げる必要がありました。装丁はLIXILの重要なプロダクトのひとつであるタイルをイメージ。重厚でしっとりとした手触りのある紙をタイルの表面に見立て、目地に当たる部分をエンボスで表現しました。

エンボス加工で、凹凸を感じられるテクスチャーに。以前に『IMA』が制作した石橋英之さんの写真集でのノウハウを元に作り上げた

ぺージを繰るごとに現れるビジュアルはどれも興味深く、次へ次へと読み進めたい気持ちがはやります。LIXILが自社で保存継承してきた貴重な写真のほか、優れたフォトグラファーによる撮り下ろし、歴史的資料としての古写真や絵画などが有機的に構成され、ビジュアルとしてもおもしろい仕上がりに。時代も素材も違うさまざまな写真のテクスチャーやテイストを統合していく感覚は『IMA』の雑誌作りで培われたものです。

歴史的な古写真とテイストを統一させるよう、撮影は浅めの色合いで空気感のある作風を生み出す森本美絵さんに依頼し、紙質にもこだわった

建築家フランク・ロイド・ライト設計の帝国ホテルにINAXの原点であるレンガを使用するため、専用のレンガ工場を建設したこと。同じくグループ会社の川島織物セルコンが手がける西陣織が、日本の服飾の変遷に伴い、着物から壁紙、カーペット、テーブルクロスといった室内装飾に生まれ変わっていったこと。雨の多い日本の気候に由来する、雨戸や壁といった住宅建材の独自進化など、日本の風土や文化、時代の変化と並走するように展開してきた100年にわたるLIXILの営みが鮮やかにビジュアライズされていきます。

透かし彫りの煉瓦やテラコッタと大谷石を組み合わせた柱が印象的な帝国ホテルのロビー

工芸的な手仕事から現代アートに至るまで、あらゆる技術・芸術への深い理解や感度の高さがLIXILの企業文化の特徴です。LIXILが自社ミュージアムやギャラリー、ライブラリーでその知見を養い、これまで数多くの展覧会や文化事業を成功させてきたことは周知の通り。その永年の積み重ねによる企業文化の資産があってこそ、質の高いLCBの制作が実現できたことは言うまでもありません。日本の技術/芸術を守り支えてきた企業と、現代の感性を雑誌に落とし込む編集チームの出会い。ふたつの感性がいかんなく発揮された、象徴的な一冊になりました。

IMA

Text by Mitsuhiro Wakayama

2018/10/10

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