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REPORT

なぜ人類は宇宙を目指すのか?
アストロバイオロジーで紐解く「生命の不思議」

地球生命は、いつ、どこで、どのように誕生したのか。生命とは一体何なのか。私たちが抱く最も根本的かつ壮大な疑問に答える学問のひとつが「アストロバイオロジー(宇宙生物学)」です。生命の起源を宇宙に求め、地球外生命の探査から火星移住の技術開発まで、人類未踏の新しい地平を開拓する最先端の学術研究。この魅惑的で難解なテーマに取り組む若き日本人研究者・藤島皓介さんに、その最新の成果と今後の展開について語っていただきました。
未知なる宇宙と生命の謎は、いま現在、どこまで解明されているのか、宇宙のナゾに迫ります。


アストロバイオロジーの3つのテーマ

タジリケイスケ(H編集長/以下、タジリ):まず初めに、アストロバイオロジーとはどういう学問なんでしょうか?

藤島皓介(以下、藤島):アストロバイオロジーは、日本語で「宇宙生物学」と呼ばれる学問分野です。もともとはNASA(アメリカ航空宇宙局)が1990年代に作った造語です。みなさんは、この宇宙にどれだけの種類の生命がいると思いますか? 千、億、それ以上の数を想像するでしょうか。しかし、私たちが知っている生命の種類は、実はたった「1種類」だけなんです。

アストロバイオロジー(宇宙生物学)の研究を進めている藤島皓介さん

つまり、それは「地球生命」という1種類だけです。「生命とは何か」を考えたときに、現状私たちはこの地球生命だけを観測範囲にしていることになります。この観測範囲をもっと広げて、「宇宙において生命とはどのような存在であり得るのか」を知りたいと思ったら、地球生命以外の比較対象がないといけません。そのような視座で生命について考えるのが、アストロバイオロジーです。

タジリ:アストロバイオロジー研究を推し進めているNASAは、具体的にどのようなことをやろうとしているのでしょうか?

藤島:NASAがやろうとしていることは、大きく分類すると3つあります。ひとつめのテーマは「生命の起源を探ること」です。そもそも、なぜこの地球で生命が誕生したのか。その生命はいつ、どこで、どのように誕生したのか。この疑問に答えようとしています。ひょっとすると、地球上で誕生したとされている地球生命は、実は火星で生まれたのかもしれません。実際、そういう学説を唱える研究者はいます。地球外から飛来した可能性も含めて、生命の起源を明らかにしようとしているわけです。

ふたつめは「地球外における生命探査」です。宇宙空間で電波を用いて知的生命体を探す活動を除けば、現在まで公式に地球外生命探査が行われたことはありません。10年か20年後の近い将来には、太陽系内に生命体を探すミッションが公式にスタートすると言われています。そういう意味では僕らはいい時代に生まれていて、少なくともあと20年生きていれば、地球外生命発見のビッグニュースを目にすることができるかもしれないのです。

そして、3番目が「生命の未来」を予見することです。ただし書きをするとすれば、この「生命」とは地球生命であり、特にそのなかでも高度な知的発達を遂げた人間のことです。「ある惑星で生命が誕生した後、その生命はどうするのか」というテーマは非常に興味深いものです。その惑星にとどまるのか、それとも別の天体に移住するのか。みなさんのなかでも意見が分かれるのではないでしょうか。「私は地球が好きだから残りたい」という人もいれば、好奇心や未来のリスクという観点から「私は地球を出て別の惑星に行きたい」と思う人もいるでしょう。これはどちらも「正しい」と言えます。

なぜなら、生命はそうやって生き残ってきたからです。今までの環境に残る者がいて、かたや別の環境を目指して旅をする者がいる。生命という総体は、そうやって全滅のリスクを回避してきたわけですね。これは生命の「行動の原則」なんです。そうした未来を想定した上で、NASAやSpaceXといった企業は地球生命が別の天体に移住できる可能性を探っています。人類は火星まで到達し、さらには移住できるのか。その根拠を科学的に証明して、人類の宇宙進出を可能とするサポート技術を開発しています。

以上が、アストロバイオロジーの根幹にある3つのテーマです。

地球生命はどのように生まれたのか

タジリ:藤島さんはこの3つのテーマを網羅的に研究されているんですよね。

藤島:はい、そうです。3つのテーマそれぞれに関わる、別々のプロジェクトに参加しています。人生は1回しかないので、どうせなら3つのテーマすべてに携わりたいなと(笑)。いまの自分の研究は贅沢であるとも言えるし、とてもひとりで背負いきれるスケールではないので、言い換えれば壮大で果てしないとも言えるでしょう。

タジリ:では、いまお話いただいた3つのテーマについて、一つひとつより詳しいお話を伺っていきたいと思います。まず、生命の起源ですが、現在までどれくらいのことが分かっているのでしょうか?

藤島:これについては「ほとんど分かっていない」と言っていいかもしれません。のっけから残念な回答かもしれませんが(笑)。地球生命がどういう環境で誕生したかということについては、さまざまな仮説が立てられていますが、いまだに定説を見ないというのが現状です。

そもそも生命とは何なのか。暫定的に定義してみましょう。生命とは、「外からエネルギーを摂取して、それによって自分自身を構成するパーツを作り出して全体を維持したり、増殖したり、進化するシステムである」とひとまず定義しておきます。これを生命だとすると、少なくとも誕生の環境にはエネルギーが必要であり、加えて構成パーツである有機物も無くてはならないことになります。つまり生命が誕生した場所に有機物が存在し、かつエネルギーが豊富な場所であると考えると、深海にある「熱水噴出孔」や地表の「間欠泉」といった場所が有力候補として挙がってきます。

当初、熱水噴出孔に生命がいるとは誰も考えていませんでした。しかし1970代の発見からまもなく深海探査によって、その周りにとんでもない数の微生物や甲殻類などの大型の生物がいることが明らかになったんです。実はこの熱水噴出孔はものすごくエネルギーが豊富な、いわば「バッテリー」のような場所で、ここから多くの微生物がエネルギーを得ていたわけです。ですから、太古の熱水噴出孔で生命が誕生した可能性は大いにあると言えます。

熱水噴出孔が生命誕生の場所として有力視される背景には、もうひとつ別の理由があります。深海にあるため、海面付近で起こる天文学的なイベントにほとんど影響されないことです。生命が誕生したとされるころの太古の地球は「後期重爆撃期」といって、地表に巨大な隕石が降り注ぐ時期に相当します。地球になりきれなかった岩石が、地球のすぐ近くの宇宙空間にうようよ漂っている状態です。そういった巨大隕石が落ちてくると、地表に大きなクレーターができたり、海面の水が一部蒸発してしまったりと環境の劇的な変化が起こります。しかし、熱水噴出孔は深海にあるので、こうしたイベントの影響を受けません。この安定性が、生命を発生させ育む要因になったのではないかと、一部の研究者のあいだでは言われています。

一方で間欠泉は熱水噴出孔とは違った理由で、生命誕生の候補地になっています。先ほど地表や海上は天文学的イベントの影響を受けやすいと言いましたが、確率論的な話をすれば「運良くリセットされなかった」間欠泉を想定することも可能です。もしそのような場所があった場合、そこではごく自然に水がたまったり干上がったりしているわけです。すると、干上がりかけた場所は、有機物がものすごく濃縮されて、場合によっては液晶っぽくなります。ここで化学変化が起こって生命が誕生したと言う研究者もいます。

どちらが正しい仮説なのかは、まだ分かりません。しかし、こうした異なる仮説をぶつけ合い、議論していくことによって、少しずつ生命の起源に迫っているのは確かです。

地球外生命は「生命の起源」を指し示す?

タジリ:藤島さんが現在取り組まれている、生命の起源を探る研究について教えてください。

藤島:生命の起源に迫る研究として、私はDNA/RNA/タンパク質の関係性の起源を探っています。これらは生命体の「設計図」のようなもので、種類の異なる核酸やアミノ酸が鎖状に連結したものです。この組み合わせ配列の違いが、生命体それぞれの差となってあらわれています。アミノ酸を数珠のようにつなげていくとタンパク質になりますが、アミノ酸はたくさん種類があるので、これらの組み合わせの種類は膨大にあります。私の研究は、この組み合わせの一部を人為的に再現して、生命の機能に関連する単純なタンパク質にはどのようなものがあり得るか調べています。

仮に私たちが持つものとは違う種類のタンパク質が生命としての機能を備えていた場合、そのタンパク質を利用する生命体が地球外のどこかに存在してもいいことになります。

要するに、地球のみならず宇宙に広く存在するタンパク質(アミノ酸)の種類と機能を確かめていくことで、生命のさまざまな「あり方」を探っているわけです。

タジリ:過去にあり得た、あるいは全く新しいタンパク質の種類を探ることで、生命の起源に関わる分子を突き止められるかもしれないということですね。そう考えてみると、われわれ現代人にとって役立つようなタンパク質も作り出せたりできるものでしょうか?

藤島:それも十分に可能性があります。私が行っている実験では、ある機能を持つタンパク質を見つけて、その機能を最大化するようにどんどんチューニングしていくという方法を採っています。

配列の組み合わせはほぼ無限大ですが、一回の実験で最大10の13乗(10兆)のランダムな配列をテストすることができます。そのランダムな配列のなかからある特定の機能を持つものを選んできて、配列を少しずつ変えていきます。そうやって進化させていくと機能性の高いタンパク質ができ上がるわけです。

これが何に役立つかと言うと創薬の分野です。例えば、「抗体」は非常に配列が限定されていて、身体にある化合物やある特定のタンパク質に特異的にくっつくような性質を持っています。例えばがんの表面に存在しているような特異的なタンパク質にくっつく抗体を創ることができたら、がん細胞を無力化できるかもしれませんね。

タジリ:次にアストロバイオロジーの第2のテーマ「地球外生命の探査」について伺いたいと思います。単刀直入にお聞きしますが、地球外生命はこれまでに見つかっているんでしょうか?

藤島:これも残念ながら、見つかってはいません。ただ可能性はゼロじゃない、ということしか言えないです。というのは、私たちが探索している宇宙の範囲が狭すぎるという問題がまずあります。

私たちが住んでいる地球は太陽系にあり、太陽系は天の川銀河のなかにあります。太陽のような自ら光を放つ星は「恒星」と呼ばれていますが、天の川銀河には恒星が2000億から4000億個あると言われています。天の川銀河以外にもたくさんの銀河が存在していますから、宇宙にはそれこそ掃いて捨てるほどの恒星が存在しています。その周りには少なくともひとつ以上の惑星があると言われていますので、生命が存在する可能性がある惑星は文字どおり「星の数ほど」あるわけです。

しかし、そもそも私たちは、いまだ太陽系以外の恒星系を探索できていません。太陽系の「おとなり」にあたる、アルファ・ケンタウリ星(ケンタウルス座アルファ星)という恒星系までは4.3光年という途方もない距離があります。現在の技術では、探査機が行って帰ってくるまでに数万年かかってしまいます。観測でよければ、将来的には惑星の大気の組成などの情報が得られるようになるでしょう、ただ探査機で直接探しにいく場合には太陽系内で行わざるを得ないのが現状です。

生命が存在する惑星の条件として、「ハビタブルゾーン」(水が液体の状態である領域)がなければなりません。ハビタブルの定義も実は曖昧ですが、水の存在が鍵だとすると太陽系のなかにハビタブルゾーンを持つ惑星は、地球以外にもいくつか存在します。そのうちのひとつが「エンケラドス」という土星の衛星です。実はこの星は、地表は氷で覆われていますが、内部には液体の水をたたえています。この水が内側から表面に向かって吹き出していることを、10年ほど前に、探査機「カッシーニ」が発見しました。

カッシーニには質量分析器が搭載されていて、これによってエンケラドスから噴出する水(氷の粒)の成分を調べることができました。すると非常におもしろいことが分かったんです。採取した水のなかには、有機化合物のほか、生命のエネルギーとなる水素、地球の海水の塩と同じ成分であるナトリウムやカリウム、そして「ナノシリカ」と呼ばれる非常に微細なガラスの結晶が含まれていました。

このナノシリカ粒子は、アルカリ熱水噴出孔のような場所で高温の熱水に溶けていたシリカが、海水で冷やされて生成されることが知られています。要するに、エンケラドスの内部には地球における熱水噴出孔のような環境があって、生命が存在できる可能性があることが分かってきたんです。私自身が関わっているプロジェクトでは、将来的にこのエンケラドスに探査機を飛ばして、成分分析を行うことで生命の有無を探ることを目標にしています。

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なぜ人類は火星を目指すのか

タジリ:アストロバイオロジーの第3のテーマは「生命の未来」でした。例えば最近ではアメリカの実業家イーロン・マスク氏が火星移住計画を発表したように、にわかに地球外への移住の話題になっています。そもそも人類はなぜ、地球という快適な環境を捨てて、火星のような過酷な環境に身を置こうとしているのでしょうか?

藤島:Space X社のイーロン・マスク氏は「リスクヘッジ」だと答えていますね。先ほどもお話ししたように、まず生命の行動原則として、全滅を避けるために「多くの個体とは違った選択をする一群」というのが必ず現れます。もう少し詳しく説明しましょう。

地球上の生命が今後も地球上で生き残っていける確率は100%ではないです。つまり、何かの拍子に死に絶えるリスクは常にあるわけです。その原因は人為的な災害かもしれないし、エネルギー不足かもしれない。あるいは天変地異も考えられるでしょう。これによって全滅はしなかったとしても、人間の文明はかなり衰退することが予想されます。

今後1000年、一万年のスパンで見れば、こうしたリスクは無視できません。種の保存のためには、こうしたことが起こる前に、人類が火星に移住できる状況を実現しておくべきというのが、彼の考えるリスクヘッジです。NASAも火星への人類到達を目指していますが、こちらはリスクヘッジというよりは、科学的な探査に基づいているようです。いまは無人探査が主流ですが、火星で人間が生存していけるのかについてもっとよく知りたいというのが現状です。

火星がおもしろいのは、38億年前は海があったと言われていることです。38億年前というと地球生命の「共通祖先」がすでに誕生したころです。また、地球の海と火星の海、どちらが先にできたかというと、先に冷えた火星の方にまず海ができたと言われています。このトークの冒頭で、火星の生命が太古の地球にやってきた可能性について触れました。その根拠が、いま説明した火星の方が生命の誕生環境を早くから整えていたことです。

もし何らかの要因で火星の生命が宇宙空間に舞い上がり、惑星間移動によって地球に移ってきたのであれば、私たちは「火星生まれ地球育ちの生命体」だったということになるかもしれませんね(笑)。このことは、火星探査を行えば今後明らかになるかもしれません。火星の地下にDNAを持つ生命体が発見され、DNAの配列が明らかになって、地球生命の系統樹に書き込まれるようなことがあれば、これは世紀の大発見です。大変なパラダイムシフトが起きます。

しかし、これによって分かることは「火星生命と地球生命は兄弟だった」という事実だけです。生命の起源を突き止めるには至りません。もしそれが明らかになったとしても、生命の起源までの途方もない道程を考えると、嬉しい反面ちょっと残念な気持ちにもなりますね。逆に、エンケラドスなどでDNAとは全く異なる仕組みを持った生命が発見された方が、地球生命との比較対象ができる点で、より豊かな知見がもたらされるでしょう。

タジリ:藤島さんご自身も、人類の火星移住に関する研究をされているんですよね。具体的にどういったことをされているんでしょうか?

藤島:私がNASAで関わっていた研究のひとつに生物学やバイオテクノロジーを応用して、火星における人類の生活環境を整える技術の開発があります。人間が火星で暮らしていく上で、まず必要なことは「地産地消」です。地球から何らかの資源を火星に送り続けるとなると、莫大なコストがかかります。大げさに言えばリンゴひとつを火星に届けるのにも数百万円かかるとすれば、火星にあるリソースを火星で消費できなければ、人類の長期的な火星での活動はあり得ないわけです。

© John Cumbers, Jonathan Shih, and John Woebcke--Synthetic Biology in Space

火星のリソースと言われてすぐ思いつくのは、太陽光です。地下には水がありますし、大気は二酸化炭素です。この3つがあれば光合成ができます。植物を火星に連れていけば、光合成をして酸素をつくり出してくれます。加えて植物が育つので、栽培して食べることも可能です。植物の成長に必要な窒素は、特定の細菌の力を借りて土壌に固定します(窒素固定)。このようにして、植物がある環境を火星で実現していきます。

移住のもうひとつの障壁は、地球の300倍とも言われる紫外線量です。地球にはこの線量に耐えられる細菌がいて、その多くは紫外線を吸収する色素を持っています。少量で持ち運びできるので、これを火星で培養できるようにして、居住区の外壁をコーティングすれば紫外線の影響を受けずに済むわけです。また、過塩素酸塩という毒性の高い物質が火星の土壌に含まれていますが、これに耐性を持ち、さらには分解する菌の存在もすでに知られています。このように、他の生き物の力を借りて、火星における人類の生活環境を整えていけないかと考えています。

 

生命のナゾは、人類を宇宙へと向かわせる

タジリ:生命の起源が分かったとき、それは人類にどんなインパクトをもたらすと思いますか?

藤島:まず、私たちの生命観が変わります。世界のさまざまな宗教が「生命」を意味づけたり、その誕生や死について言及したりしています。地球外の生命が発見され、生命の起源が科学的に明らかになったならば、現在宗教が示しているコンセプトが大きく変化するきっかけになるかもしれません。あるいは、人類が生命についてまた一から考え始めるようになるかもしれない。そこで新しい概念や倫理観が発生してくるでしょう。そして宇宙における私たちの存在への興味はますます高まっていくと思います。

地球外生命がひとたび発見されたら、向こう100年くらいはその場所に探査機を送り続けることになるでしょう。そうなると技術開発の熱量は今とは違ったところに向けられるでしょうし、新しいビジネスや学問も生まれてくるはずですよね。アストロバイオロジーは確かに壮大ですが、あながち荒唐無稽ではありません。実際に近い将来、ものすごいパラダイムシフトを起こす可能性を秘めています。全く新しいビジョン、新しいステージがもたらされるかもしれない。人類がいつかそこに到達できると信じたいですね。

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