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REPORT

オーケストラは19世紀のコピーバンド!?
作曲家・藤倉大の“特異”な音楽論

「STRADIVARIUS ‘f’enomenon -ストラディヴァリウス300年目のキセキ展-」とのコラボレーションで実現したトークセッションの第1部に引き続き、第2部です。

ロンドンの音楽大学で博士課程まで修了したにも関わらず「王道のクラシックを知らない」と断言する現代作曲家の藤倉大さん。現代音楽とはいえ、楽器を操るうえでクラシックは外せない要素にも思われますが、そんな藤倉さんがいかにして世界を代表する作曲家へと成したのか。黒鳥社のコンテンツ・ディレクターの若林恵さんが、藤倉さんのクリエティブの秘密を探ります。


第2部「現代音楽がもたらす創造性とその未来」

現代音楽を切りひらいてきた藤倉大氏の原点とは

タジリ:第1部はストラディヴァリウスにフィーチャーしてきましたが、第2部では作曲家、藤倉さんのクリエイティビティに注目していきます。藤倉さんはどんな音楽をつくり、いかに働いているのかを若林さんにひも解いていただきます。ではまず、お二人の関係性を教えてください。

藤倉:僕、『WIRED』の大ファンだったんです。

若林:そうでしたよね。僕が『WIRED』の編集長をしていたときに音楽家の方を呼んで、創作の秘密に迫るシリーズにご協力いただいたのが最初の出会いですよね。

「黒鳥社」のコンテンツ・ディレクターの若林恵さん(右)と藤倉大さん

昨年、「WIRED Audi INNOVATION AWARD 2017」を坂本龍一さんと共に藤倉さんも受賞されて、授章式で一緒にピアノの即興演奏をなさっていましたよね。てっきり坂本さんがピアノを弾くかと思いきや、藤倉さんが座って弾き始めて。それがうまいことなんの。

藤倉:坂本さんはガリガリとピアノの弦を叩いていましたね。

RYUICHI SAKAMOTO × DAI FUJIKURA |WIRED Audi INNOVATION AWARD 2017 INNOVATOR SESSION

若林:そもそも作曲を始めたのは何がきっかけだったのですか?

藤倉:僕はもともと15歳でイギリスの音楽学校へ留学したんです。『ハリーポッター』みたいな感じのところで。

若林:ハリーポッター?

藤倉:ホグワーツ魔法魔術学校のような制服を着て、ああいう世界観の学校ということです。そこで奨学生として迎えられました。

若林:なるほど。

藤倉:作曲をしたいと思い描くようになったきっかけは、5歳頃から習い始めたピアノです。その先生が厳しくも、良い先生でした。ベートーヴェンやモーツァルトなど歴史上有名な作曲家の曲を楽譜通り習うのですが、それが僕は嫌で、音符などを自分で勝手に変えていました。古典は同じフレーズのリピートが多いじゃないですか。ベートーヴェンの『運命』とか。あまり盛り上がらないのに(笑)。それは、この現代では合わないと思ったんです。

そんな僕を先生はしっかりと叱ってくれました。それでも僕は自分の改編で演奏したくて仕方なかった。だから、自分で好きにつくってしまえと作曲を始めました。

 

作曲する音楽と鑑賞したい音楽

若林:お話を伺いながらずっと藤倉さんがハリーポッターの格好してピアノ弾いている姿を想像していました(笑)。

それで本日聞きたかったことは、楽譜には作曲家の音の好みのような、ごく細かいことまでの指定を書けないですよね。自分が作曲した曲の演奏を聴き、イメージの音色と違うと感じることはありませんか?

藤倉:著名なヴァイオリニストでストラディヴァリウスを愛用しているビクトリア・ムローヴァさんのために書いた曲があるのですが、それをコンサートで演奏する1年も前のリハーサルに呼ばれたことがありました。

リハーサルするなかで、スル・ポンティチェロというオーソドックスな奏法があったのですが、なんだかそこだけ演奏にムローヴァさんの音色が感じられませんでした。それで、急遽その部分は削ることに。こんな感じで、現場で曲の手直しをすることもあります。

若林:『ボンクリ・フェス』でも選曲を担当されていて、藤倉さんは聴いたことない音に対する興味の幅が広い方だと思いますが、どんな音が好みなんですか?

藤倉:僕の好みは、僕の書く音楽と正反対のジャンルなんです。クラシックの音楽家たちはあれだけ音色にこだわっているのに、録音になるとチェックもせず無頓着なんです。ところが、ノルウェーの革新的な音楽家のヤン・バンクは楽譜は読めませんが、全体の音のバランスをクラシックの人たち以上に重視する。となると、譜面が邪魔になってしまう。そうした意外性がおもしろいんです。

若林:楽譜も読めず、4分の4拍子の意味すら理解しないアーティストとの出会いを楽しんだ坂本龍一さんと一緒ですよね。やっぱりアマチュアは楽しいんですよ。難しいことを気にせず、「なんかいいなー」と音楽を聴けるから。ところが藤倉さんレベルになるとすべてが聴こえてしまう。それって、ある種の不自由ですよね。

藤倉:そうですよ。ただ、若林さんも同じこと感じませんか? 雑誌の編集をされているから、別の雑誌を見ると細部が気になってしまうでしょ?

若林:確かにそうですね。だからあまり見ないようにしています。それって、楽しみを奪われている感覚でもありますよね。

藤倉:それもあって、僕は周囲にいる人たちの音楽を聴かないようにしています。だから自分の作曲とは正反対の音楽が好きなのかもしれません。

若林:でも、クラシックの世界はある種のレガシーがあるのでは?

藤倉:僕はポップ・ミュージックとサントラで育ったので、デイヴィッド・シルヴィアンや坂本龍一さんの曲をたくさん聴きました。しかも、凝り性なのでめちゃくちゃ聴きます。例えば、坂本龍一さんのCDも日本版と海外版は入っている曲が少し違うってことは知られているかもしれませんが、ベースの効き方が違っていたりします。それを仲良くなってから坂本さんに話したら、「ちゃんと聴いてる人がいるんだな」っておっしゃっていました(笑)。

若林:そういえば、いろんな人に「アイデンティティソング」を聞いて回った企画で、藤倉さんは80年代の名曲「Ballet Mécanique」を挙げていましたね。

藤倉:そうです。後に、坂本さんに頼まれてその曲のオーケストレーションしたこともあります。

若林:作曲するときに向き合う音楽と好きで聴く音楽は別物なんですね。

藤倉:そうなんです。

 

「音程」で聴くか「スタイル」で聴くか

藤倉:実は作曲するときに僕と若林さんの接点があります。『WIRED』で特集していた微生物や腸内細菌の記事からインスピレーションを受けて作った曲が多いんです。そんな『WIRED』ファンの僕から質問ですが、ここまで情報が手に入りやすくなったことで、かえって情報の取捨選択が困難になったと思います。そんな時代にメディアとしてどうやっておもしろいトピックだけを切り取ることができるのですか?

若林:たまに出くわすおもしろい話ってありますよね。その話の背景にある世のなかで起きている流れや事象に目を向け、同じような背景のもとで起きていることや、体現している別のものを探っていく感じです。

常に人と会って聞いた話でなんだか引っかかっていることなどもあります。以前、藤倉さんから聞いた「音程」の重要性とか。

藤倉:音というものは、動いたときが難しいがゆえに楽しいんです。ひとつ動かしただけで大変なことですから。

音程と音色はコンビネーションでなければいけません。アルノルト・シェーンベルクが残した「良い音楽はアコーディオンで弾かれても美しく聴こえる」という言葉がありますが、彼の頭のなかには音程しかない。アコーディオンのような単調な音色の楽器でも美しくなるほどの良い音程が大事だと言っています。

若林:イントロクイズって、音程と音色のどちらで理解していると思いますか?

藤倉:それはおもしろい疑問ですね。どちらか分かりませんが、それで思い出したことがあります。私の妻はすごく耳が良いのですが、あるポップミュージックを聴いていたら「あ、この曲はあの曲と全く同じだ」と言い出したんです。それで似ているという曲を聴いたところ、テンポも調もスタイルも違うのに、音程はすごく似ていたんです。ということは、彼女は音程で聴いているということですよね。その逆に、「スタイル」や「雰囲気」で聴いている人もいるのでしょう。

オーケストラは19世紀のコピーバンド!?

若林:僕は最近、人の顔を覚えられなくなってきましたが、声は覚えている。例えば声真似をして、それが似ているときは音程がつかめた感覚がるときなんです。

人の記憶に残るものが何なのかが気になります。ビートルズ好きっていう人は曲というよりは、曲を演奏しているビートルズが好きな人が多いと思うんです。でも、クラシックは演奏者にこだわりなく、ある曲が好きだという人がほとんどでしょう。

藤倉:そうですね。例えば、U2のボノの声が出なくなったからといって、ミック・ジャガーが彼の代わりにボーカルになりませんからね(笑)。でもクラシックでは、ある指揮者が降りたら、代わりがすぐに決まります。

若林:そうそう。最初にロックなどに馴染んだ人間からすると、そういうところがよく分からない。

藤倉:曲が好きなのか、奏者が好きなのか分からないですよね。クラシックの場合、作曲家は自作の曲に対して著作権を得ますし、死後も演奏されて名前が残ります。でも、指揮者や奏者は亡くなってしまえばそれきりですよね。

若林:著作権という概念が出てくることと、過去の作曲を演奏するのはもしかして同時に出てくる話だったりしたんですか。

藤倉:そうかもしれません。でも、僕は本当にクラシックあまり詳しくなくて。なぜなら、200年前と生活感が違うからテンポが遅いじゃないですか(笑)。

若林:そういうこと言っていいの?

藤倉:いいんじゃないですか。ある人が皮肉って「オーケストラは単なる19世紀のコピーバンドだ」と言っていて感心しました。

若林:そんなこと言って大丈夫ですか? 怒られますよ(笑)。

藤倉:クラシックの作家はみんなもう亡くなっているから怒らないです(笑)。

若林:でも例えば、「シューベルトを弾くのが俺のいちばんの仕事なんだ」っていう人もなかにはいますよ?

藤倉:その考えを直した方がいいんです。いまや昔の曲の演奏はいろんなメディアで聴くことができるので、「みんな新しいことをやりませんか?」と思うわけです。とはいえ、モーツァルトもベートーベンも好きですし、クラシックが嫌いなわけじゃないですからね。

藤倉大がもたらす創造性とその未来

若林:そもそも現代音楽家の人はクラシックの世界のなかにいる人なんですか?

藤倉:僕は自分のことを被害者だと思っています。なぜなら、書きたい曲を書いているだけなのに、「現代音楽ですね」と言われてしまう。

若林:あー、なるほど。でも、書いている曲はクラシックの曲をある程度演奏できる人じゃないと奏でられないようなものなんでしょう?

藤倉:それはそうですが、僕は表現方法として演奏家が持つ演奏する力と個性をコラボレーションさせながら曲をつくっていきます。

僕はこう見えて博士課程を終えているんですよ。ハリーポッターの大学院で(笑)。そこまで勉強したにもかかわらず、対位法(編注:主旋律に対してもうひとつのメロディである対旋律を付ける作曲法)や和声(編注:和音のつながりに注目して理論をまとめ直す作曲法)といった古典的な理論を一度も習ったことがありません。大学時代の恩師であるダリル・ランズウィック師に対位法を学びたいと一度お願いしたことがあるのですが、「君は前だけ見て作曲しなさい!」と喝破されて教えてくれなかった(笑)。

でも、僕の音楽には一般的にたくさんの音を同時に使う対位法がよく用いられているそうです。ただ、僕自身は王道の対位法はできません。つまり、自分のルールの対位法をやっているだけなんですよ。だって、クラシック音楽ではなくホラー映画のサントラで育っているくらいなんで。

若林:何のサントラですか?

藤倉:『エイリアン3』。

若林:(笑)。

藤倉:同じ作曲家エリオット・ゴールデンサールが、『バットマン フォーエバー』の音楽も手がけていますが、それもいい。

若林:そのほかに、もうひとつほどエリオット・ゴールデンサール作曲でオススメの映画を教えてください。

藤倉:『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』ですかね。あとは、『マイケル・コリンズ』。どれも映画としての評価は高くない作品のようですが、音楽がいいんです。

僕の周りの音楽家にこんな人はなかなかいませんが、僕はティーンエイジャーのころからずっと映画音楽のサントラが大好きでした。普通みんな「バッハ最高」というスタンスなんで(笑)。

若林:モーツァルトとかは?

藤倉:モーツァルトにはゴーストライターがいたという説が有力なので、どこまでが彼の曲なのか線引きが難しい。ただ、彼の曲は大好きです。なんでもないフレーズでも、彼が手を入れるだけで素晴らしいメロディに変貌してしまう。それを、なんともないことかのようにさらっとやってしまっているように感じるからモーツァルトの曲は本当にすごい。

ベートーヴェンも素晴らしいのですが、聴くたびに「おい、お前いまの聴いたか? すごいだろ?」とベートーヴェンのドヤ顔が浮かんでしまうんですよ(笑)。

若林:よくそんなこと言えますね(笑)。ストラディヴァリウスに絡めていこうと思っていたのに、どんどん話題が離れてしまったじゃないですか(笑)。

タジリ:ありがとうとございます。これから質問の時間に移りたいと思います。

 

質問者:藤倉さんは作曲をするとき演奏者の気持ちを考えていますか?

藤倉:すごくいい質問ですね。演奏家の方が僕に作曲を依頼してきた場合、僕はその人と何時間でもコミュニケーションを取り、奏者と一緒に曲をつくります。本当に才能のある奏者にとっては、一度演奏したことのあるような奏法では退屈してしまうと思うんです。だから、その人にとって挑戦となるような新しい奏法の曲をつくるようにしています。

最近よく思うのが、トップの演奏家と仕事をするときに、彼らにとって指示したものを上手に弾くのは技術的に簡単です。でも、前後の旋律に合わせた「あなたのベストな『ド』」が弾けるかどうかが肝心だと思っています。だから僕は、その演奏家がいちばん良く見えるような曲をデザインしているんです。

タジリ:ありがとうとございました。予定時刻をだいぶ過ぎてしまいましたが、藤倉さんのクリエイティブの本質が垣間見えたのでしょうか。また日本にお越しいただいた際にはまた別の視点でお話をお伺いできればと思います。ありがとうございました。

Photographs by Honami Kawai
Text by Ryo Inao

2018/10/4

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