ヒト・コト・ミライが交差する
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ト・ト・ミライが交差する
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produced by amana

REPORT

写真家が見た、いま地球で起こっていること

北極、南極、アフリカ、日本をめぐり、激変する地球環境、そして野生動物を鋭い目で切り取る写真家、半田也寸志さん。amana squareで行われた写真展「WILD BUT BEAUTIFUL」を記念した半田さんのトークセッションでは、WWFジャパン自然保護室次長の三間淳吉さんを特別ゲストに迎え、いま地球で何が起きているのか、そしてわれわれに何ができるのかが語られました。半田さんが体験した現地でのエピソードや驚きの事実を交えたトーク内容の一部をレポートします。


人間の欲に矛盾を感じて

半田也寸志(以下、半田):本日はお忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。今回は野生動物や環境問題に目を向けた写真を初めて展示させていただきましたが、なぜ私がそういった写真を撮り始めたのかと言うと、人間の際限の無い欲望と慢心。そして、それらがもたらした結果と有終の美を記録に残しておきたかったからです。最初のきっかけは、前作『IRON STILLS ― アメリカ、鉄の遺構』という写真集の制作にさかのぼります。

写真家の半田也寸志さん

半田:リーマン・ショックが起こったときに、アメリカ最大の製鉄所、ベスレヘム製鉄所が閉鎖されました。武器や車などの輸出で、瞬く間にアメリカを世界一裕福で、力を持つ国に押し上げたのが鉄産業です。しかし、日本やドイツが第二次世界大戦で空爆を受け、そこから復興する過程で設備を一新し、より安くて良いものをつくれるようになって米国の鉄製品を凌駕するようになった。その結果、世界一位に安住し、あぐらをかいていたアメリカの鉄産業が皮肉にもつぶれてしまった。現在、トランプ氏の票田になっている、ラストベルトと言われる地帯の話です。

そうしたアメリカの鉄産業の衰勢と、その遺構を記録した写真集の準備をしていたときに日本で起きたのが、東日本大震災でした。津波の避難区域で、かつて柳田国男も指摘したように昔から「ここは住むな」と言われていたところに「大丈夫だろう」と家を建てたら、やはり再び津波に流されてしまった。鎮魂を求めて、それも本に纏めましたが、いずれにしても、そういった人間の慢心が招いた悲惨な情景を目の当たりにしたときの喪失感がすごくて。そんな時に、たまたまテレビで放映していた動物の番組を見ていて、本物を見てみたいと思い立ち、タンザニアに動物を撮りに行くことを決めました。動物を見ていると、今度は「人間というのは何だろう」という思いが出てきました。動物は、テリトリーが守られ、食事ができて、好きな異性と愛し合って、子どもと安心して暮らせる限り、それ以上は望みませんが、人間の欲はとどまるところを知りません。もっと良い暮らしをしたい、もっと儲けたいと、どんどん地球を汚していくのです。今日はそうしたことをご理解いただき、話を聞いていただければと思います。

タジリケイスケ(「H」編集長/以下、タジリ):ありがとうございます。次はWWFジャパンの自然保護室次長の三間さんから、WWFの活動をお話しいただけますでしょうか。

「H」編集長のタジリケイスケ(右)と、「NATURE & SCIENCE」編集長の神吉弘邦

三間淳吉(以下、三間):みなさん、こんばんは。パンダのロゴの自然保護団体WWFから参りました。

「WILD BUT BEAUTIFUL」開催を後援したWWFジャパンのブース

三間:WWFは約100カ国に事務局があり、それぞれの国での活動をしたり、連携をしながら国際的な視点から環境問題に取り組んだりしています。先ほど半田さんがおっしゃった、人の欲がいろいろな問題を引き起こしているということ。その問題のひとつが自然破壊や環境問題だと思っています。

WWFジャパン自然保護室次長の三間淳吉さん

三間:WWFは基本的に大きく4つの活動をしています。

ひとつ目は、地球温暖化です。暖かくなるだけではなく、逆に雪が増えたり、大雨が増えたりとか、これまでと違う何かが起きている。こうした問題を防ぐ活動です。

ふたつ目は、野生生物そのものの保護です。保護区の設立を支援したり、密猟や密輸を防ぐ取り組みを推進するなど、方法はさまざまです。

3つ目は、自然環境そのものである森や海などの景観を保全する仕事。

そして4つ目は、こうした取り組みを推進する基盤として、「持続可能な社会をつくること」です。私たちが紙や木材を使うためには木を切る必要があります。木を切らないと人間が生きられないので、森林が育つスピードをきちんと考えながら、森の恵みを享受していく。そうしたことが当たり前の社会的な仕組みを浸透させていく仕事です。

三間:なかでも、私たちの大きなテーマのひとつが野生生物の保護です。半田さんの素晴らしい写真を通じて、みなさまにも環境問題や野生動物について考えていただける機会となれば嬉しく思います。

 

 

アフリカでいま何が起きているのか

神吉弘邦(「NATURE & SCIENCE」編集長/以下、神吉):今回の写真展の開催に先立って半田さんにインタビューを行い、「NATURE & SCIENCE」に記事が載っていますので、そちらもぜひご覧ください(「美しき野生、その今。」)。私たちは自然と科学をテーマに、自然・ネイチャーに対して、科学・テクノロジーというもののあり方について発信している媒体でもあります。

今日はそうした人間社会と野生動物のあいだでいま何が起きているのかを、半田さんがご覧になった現場の話を中心に進めて行けたらと思います。そんなことを言うと堅苦しいテーマに感じますが、こうやってご覧になっていただいて分かるように、単純に美しさや構図の素晴らしさも感じていただけると思います。

amana squareで行われた写真展「WILD BUT BEAUTIFUL」。壁ごとに4つのエリアに分けて展示された

神吉:みなさん、ご覧になって気づかれたかもしれませんが、それぞれの壁でエリアごとに分かれて展示されていますよね。半田さん、私たちから向かって正面の、あの写真は?

半田:南アフリカの大西洋側にある国、ナミビアにある世界最古の砂漠、ナミブのデッドフライで撮ったものです。砂漠に含まれる鉄分が錆びて色が赤くなっています。地面が白いのは、南極大陸から現在のアフリカ大陸が離れたときに、もともと海だったところが隆起して、塩と珊瑚や他の生き物の死骸が石灰となって、地表に出てきているのですね。この砂漠の果ては海につながっていて、そこから水蒸気が上がってきて霧を発生させるので、その滴りで動物が生きられるというすごい生態系になっています。

デッドフライ ©半田也寸志

三間:ナミビアは本当に砂漠の厳しい自然でありながら、1日に数十キロの植物を食べなければ生きられないアフリカゾウが生きる場所です。この荒涼とした景色とのギャップを感じさせます。

半田:まさに奇跡で、雨期になると道路が川のようになるんです。と言うか、乾期は川を道路として使っているのですね。そして、その地中深くに残った雨水を、長く伸びた根っこが吸収して木が生き抜いている。虫やトカゲも水蒸気で発生した、皮膚につく水滴をなめ、その水分だけで生きていけるという生態系です。

この展示した写真たちのなかで一番印象に残っているのがタンザニアにあるオルドバイ峡谷という、ヒトの直接の子孫にあたる直立歩行猿人「アウストラロピテクス・アファレンシス」の他、「アウストラピテクス・ボイセイ」や「ホモ・ハビリス」の化石と旧石器類が出たところです。人間は、この場所で生まれて、ここから歩き始めた。ここから極北を超えて、アジアを経由し、遂に南アメリカのパタゴニアまで到達する。この大遠征をグレートジャーニーと言います。

オルドバイ峡谷 ©半田也寸志

半田:この峡谷に隣接しているセレンゲティ国立公園は、「動物の王国」といったイメージですが、ここは元々、自然のものではなく、人為的につくられたところです。タンザニアがいまだイギリスの植民地だった時代、イギリス政府が軍隊を連れてきて、「今日からはお前たちが出て行け。これから、ここは動物たちのものだ」と言って、そこで生活していた人間たちを、みんな追い出してしまった。アメリカンインディアンに対して、白人がやったようなことをイギリスはタンザニアのイコマやマサイにも行っていたのです。現在ここには人が住んでいません。

三間:私はモノクロの写真が好きです。

自然の色彩が強いため、モノクロで統一されたタンザニアのエリア

三間:モノクロの写真は、自分のなかで色を補って、見る側でイマジネーションを働かせるという楽しみがあります。私たちがよく目にする動物の生態写真は、まずモノクロで撮られることはありません。半田さんならではの視点だと思います。

半田:私の場合、例えば「霧の摩周湖」を撮るのであれば、これはカラーを使うと思います。白黒だと色のつくる彩がよく分かりませんから。反対に、例えば直光を受けている岩山のように、質感を表現したいときやフォルムをしっかりと浮かび上がらせたいときには、白黒を使います。タンザニアにはブッシュ(茂み)が多かったりとか、色を出してしまうと動物を撮るには、背景がうるさ過ぎる場合が多い。動物も保護色であるとか、周りの色が同化するのでうるさいんですね。

神吉:ちなみに、半田さんはどれぐらいの期間を撮影に費やされているのでしょうか。

半田:各セッションは、毎回それほど長くはないですが、動物写真というのは、なかなかこちらの意図した通りにはいきません。北海道の羅臼の方から「今、シャチがいっぱい来てますよ。」と言われたので、行ってみたけど、2週間滞在して結果はボウズでした。そして帰ってきた途端に、「シャチ、昨日から戻って来ました。」と言われてしまって(笑)。

そうかと思えば神の使いであるとか、白い幽霊とか言われている、あのナミビアの白いゾウですが、あのゾウを海外のプロの写真家集団がずっと追いかけていてもしばらく見つけられなかったのに、私は行った日から3日間連続で会うことができました。

ナミビアの白い象 ©半田也寸志

北南極、日本でいま何が起きているのか

タジリ:今度は右側の壁ですが、こちらは極地ですね。

半田:こちらは北極と南極になります。気候変動というテーマでもあります。

半田:この北南極パートのサウスジョージア島や、フォークランド紛争で有名になったフォークランド諸島は、言ってしまえば南極のハワイです。氷が少ないために動物が非常に暮らしやすい。また南極で生じた氷塊が、この近海で溶け出すので、その氷の下についていた大量のコケが植物プランクトンを生む。それをオキアミが食べて増え、そのオキアミを食べるため魚や鯨が来て、またそれを狙う動物がやって来る、という循環で生態系が成り立ってきました。しかしいまは温暖化の影響で、氷がこの地域にたどり着く手前の海域で解けてしまうため、その生態系も危機にさらされています。

こちらは北極、ノルウェー圏、スバールバルですね。南極はひとつの大きな大陸ですが、北極はいろいろな島が点在しているだけなので、島と島の隙間を埋めていた氷が溶けてしまうと、あいだには何もなくなってしまう。要するに孤立した島だけがあらわになってしまう。

氷が蒸発して濃霧に覆われた北極の島「isbjornhmana」 ©半田也寸志

三間:私は30年ほどバードウォッチングをしているのですが、ぜひ見たいなと思っていたオオフルマカモメというカモメが写っています。翼を広げると2メートルほどになります。南極大陸には、タカやワシのような猛禽類がおりません。代わりに生態系のトップに立っているのがオオフルマカモメやトウゾクカモメのような大型の海鳥たちです。大きな動物の死骸や、鳥の雛や、弱っている親鳥まで襲うこともある。こういう鳥たちは限られた島でしか繁殖していなくて、ほとんど一生を海の上で過ごすので、なかなか目にする機会がありません。この写真を見られたのはすごく良かったです。

半田:オオフルマカモメだけではないですが、特にアホウドリなど、今南極の鳥の数がかなり減少していて、ひどい状態です。このオオフルマカモメは死んだゾウアザラシの尻に首を突っ込んで内臓を食べているというすさまじい光景ですね。

ゾウアザラシの内臓を食べるオオフルマカモメ ©️半田也寸志

トウゾクカモメは、ペンギンも襲うし、ペンギンの卵も奪い獲る。これはその一瞬の写真で、このトウゾクは、近づいた私を威嚇しています。

威嚇するトウゾクカモメ ©️半田也寸志

神吉:あちらの最後の壁には、日本の野生動物の写真がありますね。

半田:日本の生態系は特殊ですので、あちらの壁面に分けました。人間もそうですが、やはり気候が非常に穏やかだからですかね? 海外にいる動物と比べるとすごく平和な感じがします。これはスノーモンキーと呼ばれる温泉に入るニホンザルです。通常雪があるようなところに猿は住めないのですが、ここには温泉があるから住めるのです。この猿を見に、たくさんの外国人が押し寄せています。

この写真はオオワシで、流氷に乗ってカムチャツカからやってきました。隣にあるしっぽの白い鳥はオジロワシ。日本では天然記念物とされています。その下の写真では、双方がお互いにえさを奪い合って、日露戦争の再現のようになっています(笑)。

オオワシとオジロワシの写真(右上)など日本の野生動物をまとめたエリア

加速度的に進む地球温暖化

神吉:ここからは、気候変動が動物たちにどういう影響を与えているのかをテーマにしていきます。まずは、トークイベントのために作成していただいたスライドの解説を半田さんからいただけますか。

半田:モニターに映っているのは北極にあった、かつての工場基地の残骸です。ここでは油を取る目的で、例えばアザラシやクジラ、ベルーガなどを大量に獲ってきました。当時はランプの油のために、ここまで来て海洋動物を獲っていたのです。

いまだ浜辺に山積みで残されている、捕獲されたベルーガの骨 ©半田也寸志
工場基地の残骸1 ©半田也寸志
工場基地の残骸2 ©半田也寸志

北極は、夏場は0度前後が平均気温なのですが、私が行ったときは、酷いときでプラス15度くらいの日もありました。でも、今年アラスカ圏ではプラス29度という驚異的な猛暑日があったと、新聞で読みました。

北極には2回、同じ場所に続けて行きましたが、1回目は溶けた氷が蒸発して発生した霧が濃すぎたため、前に進めない状態の日が多く、2回目はその2週間後に行ったのですが、もうここまで氷がありません。地肌が見えていて、いくら夏と言っても、ノルウェー圏の最北端で、この状態は普通じゃないなと。

氷河が溶けて生成された川 ©半田也寸志

タジリ:これは岩場ですか、氷ですか。

半田:氷が溶けてこうなっています。そのスピードは加速度的です。なぜなら、氷があるときは太陽光を反射しますが、こういった黒い地肌がいったん露出してしまうと、ますます熱を吸収して氷が、より早く溶けるからです。そして氷が溶け始めると、なかに閉じ込められていた動物や小動物の死骸がメタンガス化して溢れ出てきてしまい、さらに温暖化を加速させます。

これらの写真の断崖は、氷河で削られているのでとてももろい状態です。

氷が溶けてあらわになった溪谷 ©半田也寸志

半田:氷が溶けることで何が一番怖いか。南極と北極には世界の淡水の約90パーセントがありますが、海水温上昇に伴い、これがいっせいに溶け出す事態に陥るころには、世界中で異常気象が常態化し、ある地域は洪水が重なって壊滅、多くの地域は砂漠化していきます。そのときにいざ淡水を極地から運ぶ必要になっても、当然、もうその水は既に失われているということです。また、それによって海面水位が上がり、世界の主要都市の大半が水没してしまう可能性や、海水のなかに大量の淡水が溶け込んで塩分を薄め、いまある海洋生態系を破壊することも考えられます。

 

急速に絶滅危惧種化する野生動物

半田:この写真ではホッキョクグマが氷の海に潜って、アザラシを狙っています。

氷の海に潜ってアザラシを狙うホッキョクグマ ©半田也寸志
捕獲したアザラシを食うホッキョクグマ ©半田也寸志
脂肪をたっぷりと蓄えたホッキョクグマ ©半田也寸志

最初に出会った頃のシロクマはたいがい太っていましたが、2週間後に出会った彼らは、ほとんどがこんなふうに痩せこけてしまっていました。あまりにも小さく細くなっていて、まるで犬のように見えました。

鳥の卵を取りに崖を登って行くホッキョクグマ ©半田也寸志

半田:環境がこのような状態になってしまうと、彼らは沿岸部の氷の上で休んでいるアザラシを獲れないから、崖を登って鳥の卵を獲っています。鳥の側も卵を取られないように、集団でクマをつついて応戦する。氷のうえを歩くために発達させたクマの手足は岩場の登りに向いておらず、崖のうえから転げ落ちて死んでしまうのもいます。そんな悲しい事故がたくさん起きています。このクマもそのうち何も食べられなくなって死んでしまうでしょう。こういう状態に今シロクマが追いやられています。

三間:ご承知の通り北極はすごく厳しい環境ですね。また、少しの気候変動でも、大きな影響を被る環境だと言われています。ホッキョクグマは、もともと夏場はほとんど餌を食べない生き物なんです。冬のあいだに食べられるだけ食べて、夏に3〜4カ月絶食して、ガリガリになって、それでまた結氷してきたときに獲物を獲り始める。そういう1年の生活サイクルです。

それが仮に、1カ月夏が延びてしまったらどうなるでしょうか。深刻な飢えに襲われることになります。またホッキョククマは100キロぐらい泳ぐことのできる動物ですが、氷が少なくなると、どこにもたどり着けずに溺れて死んでしまう。このままだと、今世紀中、もしくはもう少し早くに絶滅してしまうのではないかと言われています。

トナカイ(Rein Deer) ©半田也寸志

半田:トナカイも同様です。トナカイは渡り鳥のように何千キロも季節ごとに群れをつくって旅をします。冬になってくるとコケなどが食べられなくなるので、餌を求めて南の暖かい方へ移動していく。そこで子どもを産みます。そしてまた暖かくなってくると、群れで北上していくサイクルですが、夏がずれてしまうと何百キロも旅してきたのに食べ物がない。そうすると群れが飢えてしまう。何とか生き残れても、繁殖する力が残っていない。そうした問題が起きています。

いまトナカイは絶滅危惧種になっているんです。数年前までは全くそんなことは言われていませんでした。ものすごくたくさんいた動物だったのに、いまでは絶滅の危機に瀕している。気候変動という問題の怖さなのかなと思います。つまり、急激な変化には敏感に反応するんだけれども、変化が緩慢だと手遅れになるまで、気づくことすらしない。

タジリ:なるほど。ちなみに、半田さんが今回撮影された地域を選ばれた理由はあるのでしょうか。

半田:まずは人間の文明があまりおよんでいないところに行ってみたかったので。その後、極地を見たくなって、南極と北極の後は、極東の日本をめぐりました。

神吉:撮影中、動物に襲われたことはありますか?

半田:やばいときはありましたが、直接はありません。ただ動物はいつアタックしてくるか分からないんです。反応がその動物の性格にもよるし、個体ごとに違う。こちらとしては、なるだけ動物に近寄りたいのですが、うかつに寄ればどうなるか分からないので間合いの詰め方が非常に難しいです。対峙し合う武者同士と同じですね。刀が届くか届かないか。あと1歩踏み込むかどうかで、襲ってくるか逃げられてしまうかなので。

半田:また、鳥や魚類の多くは大集団を組むことで、捕食者を撹乱します。そうやって、相手に狙いを定められないようにしています。最初、私もこの手に引っ掛かりました。集団でいられると、最初はどれを撮っていいか分かりません。このフラミンゴなんか何千羽、何万羽もいて、全部がいっせいに、しかも不規則に逃げ回るから、どれを追いかけたら良いのか、うろたえてしまう。でも、だんだん慣れてくると、「この子を撮る」と決められるようになるんです。1匹だけ決めてそれだけを、じっくり追いかけていくと結構いい写真が撮れるようになりました。

©半田也寸志

半田:このチーターの兄弟を、僕は半日追いかけました。その方が効率がいいんですね。欲を持ちすぎて、あれもこれもとなってしまうと、実は結構つまらない写真になってしまう。だから最初にターゲットを絞るのが大事です。半日、観察し続けた結果、このチーターたちも、いろいろなポーズや動きを見せてくれました。

チーターの兄弟 ©半田也寸志

半田:動物写真で一番何を学んだかと言うと、「我慢」です。根がせっかちなもんですから思うようにいかないとイライラするときもありますが、動物写真なんて、こちらの思い通りにはいきません。じーっと1時間くらい動かずに待っていて、ちょっと動いたときに10秒くらいカシャカシャと撮って、そしてまたじっと待つ。1時間何もしないということもざらにあります。もうそんなことの繰り返しですね。

 

人間と野生動物との適切な距離とは

神吉:ここからは「人間が環境に対して何ができるか」をテーマにしたいと思います。インタビュー記事では半田さんが「節度を持つ」という言葉で表していらっしゃいましたが、撮影の現場で感じたことを教えてください。

半田:テリトリーが生む軋轢は、人間と動物の宿命みたいなもので、難しいですよね。日本では最近、鹿や猪などの動物を、畑を荒らすだけの害獣と捉えていますが、これは人間の側にも責任があります。もともと彼らの生活していたところに、人間がどんどん生活圏を拡大していったわけですから。

半田:動物を餌付けするのも問題です。いま、特に外国人による観光公害が問題になっていますが、なかにはひどい観光客がいて、北海道では、ヒグマがサケを食べる姿を見たいからといって、サケの切り身を川べりに並べたりする人がいるんです。クマたちは当然やってきますが、近隣で生活している住民にとっては、とんでもないことになりますから、熊が近寄れないように、自治体が巨大な壁を立てたり、銃で殺すか、脅して追い払う。そうしたことが繰り返し起こっています。

対策としては、人間が彼らの棲息域から出て行くか、保護区をつくって、互いのバッファゾーンを広げるしかないんですが、歴史をたどると、植民地時代に英国がセレンゲティを国立公園にしたとき、地元民には何の保証も与えずに、そこで暮らす人たちを軍隊が強制的に追い出して、そこに新しく動物保護区をつくってしまった。しょうがないから地元民は動物保護区周辺の土地に畑をつくるのですが、するとつくった畑の野菜を全部、ゾウに食い荒らされてしまう。放牧をすれば、捕食動物が、それを襲うわけで、住んでいる人にとっては、そういった動物たちは害獣でしかないわけですよね。インドのトラ対策は、この方法でうまくいったようですが、それは退去させられた地元民への政府保証が手厚かったからです。動物には、そういった判断能力はありません。だから人間の側が節度を持つしかないんです。

三間:僕は以前アフリカで活動していたスタッフに聞いて、すごくショックだったことがありました。象牙の密猟が問題になっていますが、殺されたゾウから象牙が取られていないことがあったそうです。地元の人から話を聞くと、象牙のためにゾウを殺しているわけではなくて、畑を荒らす害獣として殺さざるを得ないと。地元の人たちがそこまで追い込まれてしまった、貧困などにも根差した問題です。

単純に保護区をつくっても、本来自由に移動しながら生きている野生動物をそこに閉じ込めておくのは無理なことです。逆に密猟者は入り込んでしまう。それぞれの地域で、動物の習性や人間の生き方に合った保全や共生の在り方を考えないといけないと思います。そのためには、人がいかに謙虚な気持ちで、自然を理解していくかが大事です。

三間:日本だとまだピンと来ないかもしれませんが、貧困問題を抱えている国の事情は複雑です。彼らがこれからもっと経済発展していくなか、「いまの貧しいままでいてください」と言うわけにはいかない。先進国にいるわれわれが、そのためにどんなことができるのかを考える必要があります。

 

トイレットペーパーを使わない時代には戻れない

神吉:このトークイベントにあたって三間さんと打ち合わせをしたときに、気候変動の原因を「一言では語ることができません、というのが気候変動の難しさです」とおっしゃっていたのが印象的でした。

三間:そうですね。まずはそういったことを考える、知るということが大切だと思います。クジラもライオンもそうですが、実際にはそれがどんな生き物で、どんな暮らしをしているのか。それをほとんどの人が知りません。こうした動物や自然のことが、日本でニュースになることも、それほど多くありません。貧困や地域、差別の問題などについても同じかもしれません。世界で起きていることで、日本人がまだまだ気が付いてないことがたくさんあります。やはりまずは知ることが大事だと思います。

半田:やはり投機的な経済発展のために、それを環境問題にすり替えて、短絡的に一気に推し進めるのは、止めたほうが良いと思います。なぜなら、後になってから、その副作用が出たときに、対処の施しようが無くなったり、極端に遅れたりするからです。二酸化炭素の排出量削減と経済効率を高らかにうたって推し進めてきた原発は、その良い例ですよね。最近では二酸化炭素削減を推し進めるため、自動車をガソリンから電池に変えていくという動きがあります。確かに聞こえはとても良いのですが、でも世界中の車が電化されたら、さらに膨大な電力が必要になる。現在の電力使用量だけでも、再生可能エネルギーは全然追いついていないのに。果たして、どれほどの二酸化炭素の削減になるのか、現段階では疑問です。

それに今度は電気自動車のバッテリーのために、コバルトやニッケル、リチウムといったものも大量に必要になってくる。実はレアメタルを採掘することは、環境をめちゃくちゃ破壊することなんです。それを嫌がって、各国は中国やアルゼンチンといった国々に大きく依存しているけれども、これだって後々、彼の国に政治利用されかねない。リサイクル能力の開発次第でしょうが、今後、大量廃棄されるであろう使用済み電池の処分も問題になるかもしれません。青森県六ヶ所村の例もありますからね。

タジリ:環境に向けた意識はだんだん高まっていると思いますが、その結果は出ているものでしょうか。

三間:全体としては良い方向には行っていません。WWFでは地球環境の現状を示す指標をつくってその変化を見ているのですが、高度成長期くらいから現在までに、地球の自然の豊かさは半減しています。一方で、人間が環境にかけている圧力は3〜4割増えています。化石燃料を使って二酸化炭素を大量に排出したり、森や海の資源を乱獲していることが、この圧力の原因です。

ですが、人が生きる以上、この圧力を完全にゼロにすることはできません。自動車の話でも出たとおり、レアメタルを使わないわけにはいかない。それでも、社会や環境に有害なものを使わないようにすることで、問題を解消できる考え方や手段、技術を、いま人間は手に入れ始めています。それらをこれからもっと伸ばしていける余地があると思っています。矛盾を抱えながらも、少しでも良いもの、ベターなものを真摯に探していくしかないのかなと。

経済的に発展した国であれば少しずつそうした意識が浸透していく余裕もあると思いますが、まだまだ発展途上の国であれば環境のことを考えるのは難しい。ここを解決していかなければと思います。

半田:われわれはもうトイレットペーパーを使わない時代には戻れません。しかし、それが、どれほど世界の森林伐採を推し進めているか。約15年前の統計ではありますが、当時でさえトイレットペーパーを使っているのはわずか地球人口の6パーセントだけだったのに、残りの94パーセントが使い始めたら今後どうなるのか。しかも世界人口は膨大な増加傾向にあります。そうしたことも考えていく必要があると思います。

神吉:最後に半田さんと三間さんに今後の予定、次のテーマを伺いたいです。

半田:まずはこの動物たちの本を出したいと思っています。出版社で興味ある方がいればぜひお声かけください。あとはロシアで世界的なバレリーナを撮ることが決まっていまして、2019年いっぱいかけて撮影をして翌年に写真集が出る予定です。

動物の写真で次にやりたいのは、アルビノや白い動物の写真集ですね。遺伝子異常が原因で生まれた動物以外にも、例えば南極とアフリカがつながっていた時代のDNAを受け継ぐ真っ白のライオン、アルビノの白いキリンやアザラシ、ベルーガなど。そういった白をテーマにした写真を今後期待してください。

三間:私はずっと自然保護や環境問題を伝える広報の仕事をしていますが、いつも難しさを感じています。話している内容が小難しいのもひとつですし、気軽に関心を持っていただける機会がなかなかない。こういった問題を自然の姿・イメージの力を借りて、みなさんにもう少し関心を深めていただければ嬉しいです。どうもありがとうございました。

半田さん(右)の解説を受けながら「WILD BUT BEAUTIFUL」の写真を見入る三間さん
11月3日〜12日にかけて行われた「WILD BUT BEAUTIFUL」は、多くの方にご来場いただき、好評を博しました

Photographs by Honami Kawai
Text by Masahiro Yoshikawa

2019/2/6

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