ヒト・コト・ミライが交差する
リアルプレイス │ エイチ

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produced by amana

REPORT

社会、プロダクト、都市に転換できる「ボロノイ図」って何?

2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2025年の大阪万博を控え、日本はいま、都市の目まぐるしい転換点にいます。今回は、社会や都市、建築、コミュニティを考える専門家のゲストをお招きし、未来都市像を考えます。

 

会場は、「H(エイチ)」では初開催となる「WeWorkギンザシックス」。アマナも入居するコミュニティ型ワークスペースです。今回は、100名を超える方に参加申し込みをいただきました。

 

トークは2部構成で行われ、第1部はアマナが発行する自然・科学をテーマにしたウェブマガジン「NATURE & SCIENCE」との共同企画。数理工学者の杉原厚吉さん、建築家の豊田啓介さんをゲストにお迎えし、大阪万博立候補時の会場計画案にも用いられた「ボロノイ図」をテーマに、都市の未来を考えました。


第1部:「ボロノイ図」が都市設計に応用可能なワケ

タジリケイスケ(「H」編集長/以下、タジリ):本日は「H(エイチ)」トークイベントにお越しくださいまして、ありがとうございます。「エイチ」ではカルチャーとビジネスの両軸を行き来し、次なるビジネスのきっかけをつくっていく場として、月に数回このようなイベントを開催しています。今回はWeWorkでの初めての開催となります。

トークは2部構成となっていまして、第1部は「『ボロノイ図』が都市設計に応用可能なワケ」です。生物などに見られる「ボロノイパターン」から、都市を考える企画です。第1部のモデレーターは「NATURE & SCIENCE」編集長の神吉が務めます。

神吉弘邦(「NATURE & SCIENCE」編集長/以下、神吉):皆さんこんばんは、神吉と申します。「NATURE & SCIENCE」は昨年創刊した自然と科学のウェブマガジンです。今回は建築家の豊田啓介さん、数理工学者の杉原厚吉先生をゲストにお迎えしました。

「NATURE & SCIENCE」編集長の神吉弘邦

まず「ボロノイ図・ボロノイパターン」という言葉を聞いたことがある方は、どれくらいいらっしゃいますか? 半数近くの方から手が挙がっていますね。

ボロノイ図が自然界に見られるパターンだということは僕も知っていたのですが、それがどのような仕組み・形になっているのか、専門家の方に伺いたいと思っていたところ、杉原先生の本に出会いました。ご著書の『なわばりの数理モデル -ボロノイ図からの数理工学入門- 』を読むと、一見かけ離れている自然界と人間の社会が「形」という共通のキーワードでどう結び付いているのかよく分かります。では早速、杉原先生にバトンをお渡ししようと思います。

 

「ものを目で見る」とは、どういうことか?

杉原厚吉(以下、杉原):ありがとうございます。杉原と申します。数理工学を専門に研究しています。今日はボロノイ図の話をする前に、私がいま一生懸命研究している立体錯視について、自己紹介として少しお話させてください。

数理工学者の杉原厚吉さん

この動画を見てください。何の変哲もない、家の形の立体に見えます。しかし、屋根の天辺でボールが行ったり来たりしています。これはコンピューターグラフィックスではなく、実際に起こっていることです。どういうことか、角度を変えて見ると分かります。屋根の天辺に見えたところが、実は谷底になっているのです。球が行ったり来たりして、最終的に集まるのは自然なことだったわけですね。最初にこの動画を見たときに思い浮かべる立体とは、実際には全く別の立体だと分かります。

「落ちない二面屋根」

この動画は、本当の形を教えてもらった後にもう一度見ても、多くの人はまた間違えてしまいます。二度と間違えないだろうと思っても、そうはいかないのです。

こんな風に、「目で物を見る」とは曖昧なこと。しかし、数学を使って解析をするといろいろ新しいことが分かってきたり、新しいものがつくれたりします。今日は、「ボロノイ図を利用して物事を眺めると新しいものが見えてくる」というお話をしたいと思います。

 

ボロノイパターンとは何か?

杉原:では、ボロノイ図とは何なのか。まず、平面上にこのように「点」がバラバラと散らばっている場合を考えます。

それぞれの点にとって、他より自分に近い場所を囲い込んで領域分けされたものがボロノイ図です。その結果、境界線は隣同士の点を結んだ線分の垂直二等分線になります。

具体的にボロノイ図のつくり方をいくつか説明していきましょう。まずひとつ目は、点に対してそこを頂点とする同じ大きさの円錐をそれぞれ用意。

それぞれの円錐に異なる色を塗っておいて、重なって見えなくなる部分を消します。それぞれの円錐がぶつかってできた境界が、ボロノイ領域の境界線です。

もうひとつの描き方は、小数の点のボロノイ図から出発して、点をひとつずつ追加しながら更新していく逐次添加法です。以下の5点に対するボロノイ図ができたところに、もう1点を追加してボロノイ図をつくりたいとします。

新しい点と5点それぞれの垂直二等分線を使って隣、隣と追いかけていって領域を閉じると、そこが新たなボロノイ領域になります。

ボロノイ図は、自然界のなかでもなかなか現れないですが、例えば、シクリッドフィッシュという魚が、砂地の底につくった巣のパターンがあります。オスが砂底を掘って巣をつくるのですが、蹴散らした砂がぶつかって盛り上がったところに線が見えていますね。これがボロノイ図のひとつの実例です。

シクリッドフィッシュが砂地の底につくった巣。自然の営みのなかに見事にボロノイ図が現れた(W. G. Barlow: Hexagonal territories. Anim. Behav., vol. 22, 1974, pp. 867-878 より)

避難誘導やコンビニ出店など、社会へ汎用可能な活用例

杉原:このように、ボロノイ図は自然界にも現れます。では、社会のなかでは実際にどのように活用できるのでしょうか。テーマパークの地図を例にとって説明します。

地図上には、出口が4カ所あります。それぞれの出口を生成元にしてボロノイ図をつくると、どこから出るのが一番近いのかが分かります。距離は直線距離ではなく、道路に沿った距離をとります。これを活用すると、火事が起こったときに緊急避難誘導をどうすれば良いかという計画が可能です。少し移動するだけでも時間がかかるエリアの場合は、その付近は単位距離を大きくとったりなど、「どのように距離をとるか」が重要になってきますので、ひとつの目安にすることができます。

もうひとつ例をお話しします。コンビニエンスストアが地図上にあったとして、このエリアに新規店舗を出店したいとする。極力多くのお客さんを確保するためには、できるだけ広い自分のボロノイ領域を確保したいわけです。そんなときは地図上で仮にどこかに店舗を置いてみます。そのときの自分のボロノイ領域はどうか、ボロノイ領域が増えていく方向に店舗を動かしながら、極大値になるところを見つけてやる。そうすると出店の目安がつきますね。

他にも社会への活用例を考えると、救急車が待機している場所に対してボロノイ図をつくることができます。どこかで事故に遭ってけが人が出たときに、どこに待機している救急車が出動するのが最も速いか、すぐに判断できる。救急病院のボロノイ図ができていれば、けが人を収容した後に、どの病院へ運ぶべきかという指針が得られます。

最後に、スポーツの世界における選手のボロノイ図を、ホッケーを例にご紹介します。例えば、右に向かって走っている複数の選手たちが同じ時間でどこへ到達できるかを考えると、均等ではないわけです。これを基にボロノイ図を引くと、プレーヤーがそれぞれの時間でどんなふうに場所を占めていくのかが分かります。すると、どの選手がどのくらい良い場所を確保して、チームに貢献しているのかを解析できるようになります。このようにボロノイ図の数理モデルで勢力圏を表すことができ、いろいろなバリエーションで汎用的に使える可能性があるわけです。

 

会場では杉原先生が、実際に錯視がどう見えるのか実物を披露してくださいました

「右を向きたがる矢印」

「あいまいな円柱の錯視」

物理世界とデジタル世界。共通認識をいかにつくるか

神吉:杉原先生、ありがとうございます。以前に杉原先生が「数理工学は、社会の役に立たないと意味がない」とおっしゃっていたのが非常に印象的で、まさに私たちの社会にとって有用な研究だと分かるお話でした。今度は豊田さんに、実際にボロノイパターンを使った実践事例をご紹介いただきたいと思います。

豊田啓介(以下、豊田):こんばんは、noizの豊田です。杉原先生のお話をまだまだお聞きしたいところですが、実際に私がどのようにボロノイ図をはじめとした自然界のパターンを実践に使っているのか、お話ししたいと思います。

建築家の豊田啓介さん

その前に少し自己紹介です。私はコンピューテーショナルデザインを行なっている建築家です。何かと言うと、新しいデジタル技術を使うことで、形のデザインの仕方とかつくり方、使い方がどう変わっていくのか実験的に行っています。コンピューテーショナルデザインの例として、バッグブランド「BAOBAO ISSEY MIYAKE」のショーウィンドウを手掛けた際の事例を紹介します。

これは銀座松屋の2年前くらいのショーウィンドウですが、BAOBAOさんからは、柔らかいLEDスクリーンを使ってほしいと依頼がありました。低解像度のスクリーンにBAOBAOのロゴがぴったり合うなと考え、風を受けて電子情報が「のれん」のようにはためくインタラクションを制作しました。下にファンを仕込んで風を起こし、物理的に風ではためくのと同時にデジタル画像であるBAOBAOのロゴも吹き飛んでいきます。その関係をうまく調整すれば、情報に質感や手触り感がデザインできる瞬間があるのではないかと思ったんです。コンピューテーショナルナルデザインで私は、「モノ」と「情報」の境界を超えるデザインの可能性を切り開きたいと思っています。

BAO BAO ISSEY MIYAKE Ginza Autumn Window Display(2016) , noiz

さらにパターンの話で言うと、4月に行われたミラノサローネで大日本印刷株式会社(DNP)さんのパビリオンをAtMaさんと一緒に設計した《Patterns as Time》があります。

ミラノデザインウィーク2019の大日本印刷株式会社(DNP)によるブースで展示されたAtMa inc.(左)とnoiz(右)の《Patterns as Time》, Photograph by Daici Ano

DNPさんがe-ペーパー(電子ペーパー)という、自発光はしないけれどもどんどん色が変わるようなパターンを持つ紙をつくっているので、その効果を最大化するためにどんな展示ができるかが始まりでした。最終的に錯視効果を最大化するパターンをずっと探していたところ、いわゆる「チューリングパターン」という、サバの背中などこれまた自然界にもみられるパターンに行き着きました。例えば、シマウマの「シマ模様」は外敵から群れのなかの個体を把握しにくくする効果があると言われますが、その効果をパターンが現れたり消えたりするe-ペーパーならではの環境下で最大化しようとしていたら、さまざまにスケールを変えて重なり合うチューリングパターンが最も効果的だったんです。ミラノでは電子的なオンオフに伴ってハイバックチェアやクラゲのような家具が、背景のなかに溶け込んだり連動してダンスをしたりする、没入感ある空間をつくりました。

ミラノデザインウィーク2019のDNPのブースで展示されたnoizの《Patterns of Nature》, Photograph by Daici Ano

ベースが白地になると椅子は背景に溶け込み、黒地になると椅子の形が浮き出してくるように見えます。椅子が空中に消えたり出てきたりと、スケールの変化や半透明のカーテンも相まって、視覚的に何が手前に見えていて、何が遠くに見えていているのか。何が大きくて、何が小さいのかが分からなくなる。そういったパターンによって物理的な感覚がねじ曲がる体験のデザインを試みました。

コンピューテーショナルデザインをやっていると、いわゆる設計だけではなくどうつくるかも一体的に考えることが重要になりますし、さらには、できたものがどう使われているかを検証した上で新しいデータをもう一度設計過程に取り込み、またデザインを変えてつくり出して使ってみて……という、「デザイン、施工、使う」というこれまで一律だった流れがアクティブループになっています。そうした新しい可能性を踏まえ、僕らは都市とか建築がどんな新しい質を持つようになるのかを、もっと常識を超えて考えなくてはいけません。

 

デジタル技術と伝統工芸は相性が良い

豊田:さて、ボロノイパターンの活用についてお話しすると、「ボロノイ畳」というものをつくっています。畳はなぜ四角くないといけないのか、別に他のパターンでも良いのではないかと考えたんです。よく考えてみると建物の壁は、まっすぐではありません。柱の形が出ていたり、コンクリートの壁はまっすぐではなかったり。むしろランダムな形の方が、いろいろなものと合うんじゃないかと考えました。

いまは3Dスキャンができるので、世界中どこでも空間のデータを取れれば、自分の欲しい形で、世界で唯一の自分だけの畳をデザインできます。それを生産して、世界中に発送することができたら、突然世界中が畳のマーケットになる。

目地の向きが自由になることで、光の反射の色が銀色や深緑色になったりする畳ならではの効果が普通の畳よりもおもしろい演出効果を持ち始めたりもします。デザインやテクノロジーの力で新たなマーケットを生み出すだけでも大きな価値ですが、同時にいわゆる“絶滅危惧種”になりつつある畳職人さんやイグサ農家さんもプライドを持っていまの職業を続けることができるようになる。これって素敵なことですよね。デジタル技術は、意外と伝統工芸と相性が良いんです。

ボロノイ畳《TESSE》, noiz

コンピューテーショナルデザインをやるなかで、私は「街」や「都市」といった環境を、いかにデジタル記述し、人だけでなくデジタルエージェントがどう街を理解するかで考えることがスタートだと考えています。

例えば「ポケモンGO」は、グーグルアースを使った低解像度の空間スキャンでポケモンがAR(拡張現実)で登場するものです。屋外限定のあんなに解像度が低いスキャンベースでも、ものすごい経済効果が出たわけですよね。それより解像度が上がって、属性データも入って室内もシームレスにつながって……となると、まだまだ想像がつかない未来がある。その準備を僕らはしなくてはいけないと思います。

デジタルエージェントとわれわれ物理エージェントが、お互いを理解するための記述、つまり共通認識としての「コモングラウンド(共有基盤)」をどうつくるかが重要になっていて、それを社会実験としてやらざるを得ない時代になっています。コモングラウンドについては、『WIRED』日本版VOL.33に特集が出ています。

私は、大阪万博の会場計画に関わる機会があったのですが、そこでボロノイパターンを活用しました。インタラクティブで、さまざまな属性やパラメータが動的に変化する社会において、都市計画や街、もののつくり方はどうなるかを考える必要がある。都市実験として、コモングラウンドを実装する機会として、大阪万博はとんでもなく貴重な機会だと思うんです。そう考えたとき、最も効果的にコモングラウンドの可能性を示せるモデルが、ボロノイパターンでした。

 

サイエンスの可能性と危険性を意識する

神吉:豊田さん、ありがとうございます。豊田さんは、「複雑なものを複雑なままコンピューターに取りこむためにボロノイ図に着目した」と、以前お話しされていましたね。

僕は、ボロノイ図などの数理モデルを使えば、現実を全てデジタル化してシミュレーションできると単純に思っていたのですが、杉原先生の本を読むと、そうもいかないケースがあると書いてありました。実際どのような問題や注意点があるのでしょうか。

杉原:ひとつは、コンピューターには計算の誤差があるということです。有限の精度でしか計算できないので、大規模なボロノイ図をつくろうとするといろいろ困難が出てきます。ただそれは、研究材料にもなります。

もうひとつは、数理的な手法は社会に対して万能なわけではありません。うまく使えば社会にマッチしますが、怪しい使い方をするととんでもない結論が出て、危うい面もある。例えば「ボロノイ領域」は「勢力圏」ということもあるため、勢力という単語のイメージからか「選挙運動にボロノイパターンを使えないか?」と相談されることがあります。

私は、そのようなところには到底使えないと考えています。データの性質や何を距離とするのか、どんな概念でボロノイ図として把握するのか、常に注意して見ていかなくてはいけません。可能性を大胆に追求すると同時に、危うい使い方をして崖から落ちないようにする。両方が大事だと思います。

神吉:ありがとうございます。お時間がきてしまったので、第1部はこのあたりで終了したいと思います。第2部ではモデレーターをタジリさんに交代して、進めていきます。

 

>>「『特異点』から始まる創造都市のストーリー」はこちら

Photographs by Kelly Liu
Text by Yuka Sato

2019/7/30

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