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REPORT

ブロックチェーンが創る、アートの未来市場

仮想通貨の中核技術であるブロックチェーン。金融取引や決済だけでなく、さまざまなサービスに実装され始めていますが、そのひとつがアートの分野。ブラックボックス的な世界として捉えられがちなアートマーケットにブロックチェーンがイノベーションを起こす可能性があるのでは、と期待が寄せられています。

 

ブロックチェーンでアートの民主化を目指すスタートバーンの施井泰平さんと、日本のアートマーケットを四半世紀にわたって切り拓いてきたギャラリストの小山登美夫さんが、アートマーケットの現状と未来の展望を語ります。


日本のアートマーケットの現状

タジリケイスケ(「H」編集長/以下、タジリ):本日は、スタートバーンの施井さん、小山登美夫ギャラリーの小山さんをお迎えして、アートマーケットとブロックチェーンという一見、全く異なる世界を紐解きながら、両者の持つ可能性に迫っていきたいと思います。まずは『IMA』エディトリアルディレクターの太田睦子より、おふたりの紹介をお願いします。

太田睦子(『IMA』エディトリアルディレクター/以下、太田):このテーマで「H」のトークイベントを開催したいと思ったのは、2年くらい前にあるIT系の方からブロックチェーンとアートの話をお聞きしたのですが、そのふたつがどう結び付くのかよく分からなかったからです。今日は、自分も勉強しようという下心もあって、専門家のおふたりにお越しいただきました。

小山さんはみなさんご存知のとおり、村上隆さんや奈良美智さんら、日本のアーティストを海外に知らしめた功績者。日本のアートマーケットを活性化しようとパブリックな視点で活動されてきた日本を代表するギャラリストです。

施井さんは元々のスタートがアーティストで、多摩美術大学で芸術を勉強されて東京藝大で教鞭を執り、5年ほど前にスタートバーンを立ち上げられました。アーティストだったのに、なぜブロックチェーンに可能性を見いだしたのかも含めて、お話をお伺いしたいと思います。

まず、会場でブロックチェーンを分かっているという方はどれぐらいらっしゃいますか?(会場は2割ほどの挙手)

タジリ:少ない。

太田:アートについてはよく知っているという方は?(こちらも2割ほどの挙手)

タジリ:結構、少ないですね。

太田:ブロックチェーンと同じぐらい、アートもよく分からないという人が多いのが、いまの日本なんですよね。その前提で、世界のアートマーケットの状況を簡単にお話しすると、金融機関とアートフェアが出しているレポートによれば、世界のアートマーケットの規模は、2018年時点で約7兆5000億円となっています。内訳はアメリカが40パーセント、中国が29パーセント、イギリスが18パーセント、それ以外をヨーロッパ諸国が占めていて、日本は、その他の4パーセントのなかのさらに一部。おそらく1パーセントにも満たないのが現状です。だだマーケット全体が前年比6パーセント増になっているので、その実感はあるのかなと。小山さんいかがでしょう?

『IMA』エディトリアルディレクターの太田睦子

小山登美夫(以下、小山):世界各地でお金持ちになっている人たちがアートに興味を持ち始め、たとえば中国、インドネシア、中東の富裕層によって市場全体が大きくなっています。EUはオークションで売るとアーティストにお金を払わなければならないシステムがあるため、ニューヨーク、ロンドン、香港がオークションの場としては圧倒的に有利なんですよ。後ほど施井さんから詳しい説明がありますが、セカンダリー(二次流通)にブロックチェーンが非常に有効ということです。しかし、日本ではサザビーズがバブル期に版画のオークションを1回やったきり。アートオークション会社のSBIやシンワが活発になってきたのはつい最近です。

小山登美夫ギャラリー代表の小山登美夫さん

太田:アートマーケットを構成するプレーヤーには、アートが購入できるギャラリーやアートフェアやオークション、最近ではインターネットに、日本の場合は百貨店などがありますが、それだけでなく、美術館や、アートフェスティバル、教育機関、コンテストやアワード、アートブックの出版社、メディアなどが密接に関連し合いながらマーケットをつくっていくわけです。しかし日本では、一つひとつの規模が小さく、数も少ない。なかなか相乗効果を生み出しづらいのでマーケットが成長していってないという印象があります。

小山:アメリカの現代美術の始まりは、19世紀の終わり頃から、成功者がヨーロッパのアートを買いはじめ、それが美術館の元になり、最終的には強力な教育資産になって、1950〜60年代に現代美術を牽引するアーティストがアメリカからたくさん出てきました。自国のマーケットをつくり、パリからニューヨークへマーケットの中心地を移行させる重要な役割を果たしたのが、美術館というシステムなんです。

太田:美術館が大きな役割を果たしたんですね。今回のブロックチェーンも、アートの売買だけの話かと思っていましたが、どうやらアカデミズムや教育機関にも関わっていくようですね。このあと、アートとブロックチェーンはどのように未来をつくっていけるのか、詳しくお話を伺いたいと思います。

 

ブロックチェーンとアートは相性が良い

施井泰平(以下、施井):スタートバーンでアートとブロックチェーンを繋ぐ仕組みをつくっている施井です。みなさんの挙手を見た限り、今日はアートもブロックチェーンもあまりよく分からないという方が多いようですが、両方とも注目されているのでそのおもしろさを話せればと思います。

スタートバーン株式会社代表取締役の施井泰平さん

施井:アートマーケットがどのように成立しているか、ざっくりとしたまとめをつくってみました。どんな商品にも二次流通市場(セカンダリー)と一次流通市場(プライマリー)はありますが、アートは特に二次流通市場の注目度が高く、みなさんがニュースで目にするところだと思います。

小山さんはプライマリーの世界的なギャラリストですが、一次流通市場と二次流通市場が相互影響して価値をつくっていくのがアートマーケットです。一般的な商材やクリエイティブは、二次流通になるほど価値は落ちていきますが、ものによってはすごく値段が跳ね上がっていくのがアートです。

ちょっと前にジャクソン・ポロックの作品が226億円で落札されましたが、もともとは1948年に150万円で買われたものだと言われています。二次流通ではこの70年間の所有者の来歴、展示履歴、業界での評判など情報がそろえば価値を担保する正しい流れはつくれますが、評価される前の一次流通のアーティストは管理が難しい。

アーティストが亡くなったり、世界的に有名になっていったときに、最初の作品の管理は難題です。現状では、アートギャラリーが証明書を発行したり、アーティスト本人が作品の裏にサインを書いていますが、真贋を担保するのが、作品証明書です。

一方で、作品証明書は法的に認める機関があるわけではありません。アートマーケットは閉鎖的と言われますが、その理由のひとつに、二次流通のことも考えて信頼を置けそうな、ある程度顔の見渡せる範囲で売りたいと考えるギャラリストがいるからです。

小山:アートは商品である前に作品だから売買だけになったらつまらないけど、転売は制御できません。

施井:俗に言う転売目的の人たちに売ってしまうと、ポロックのように作品の価値がどんどん上がっていくことを阻害してしまうかもしれません。そこで、作品証明書の世界共通規格をつくって電子化すれば需要はあると思うんです。それだけでなく、ブロックチェーンはマーケットを拡大する可能性があるんです。アート業界はテクノロジーにあまり注目することはありませんが、ブロックチェーンは例外です。

注目すべき点は、プロブナンス(来歴)情報、アート所有の分割や投資の民主化、デジタルアートの販売管理です。デジタルアートはコピペできるものなので高額販売に向いていないように思われますが、こういったものの所有権の管理にブロックチェーンが有効です。

Maecenas(マエケナス)というシンガポールのプロジェクトでは、アンディ・ウォーホル作品の所有権を100分割して合計約2億円を売り上げました。また、CryptoKitties(クリプトキティーズ)では、遺伝子コードのアルゴリズムで生成された画像が約1300万円で取引されたというニュースもあります。世界中で関連プロジェクトが出ているほど、アートとブロックチェーンは相性が良いと言われています。

太田:インターネットとアートというと、例えば「Artsy」とか「tagboat」のようなアート作品を扱うオンライン販売が思い浮かびます。数年前まではリアルなギャラリーや百貨店の美術部に行かなければアートが買えなかったのが、オンラインで買えるようになったわけだけれども、それとも完全に違うわけですよね。

施井:多くのギャラリストがインターネットで販売するのを嫌がる理由のひとつが、価格が開示されてしまうことです。特にまだ評価が定まっていないアーティストの値段を公にしたくないとか、国によって値段が変わっていることがあらわになるなど、いろいろな理由があり、このような点からインターネット販売とギャラリーはあまり相性が良くない気がします。

太田:インターネットでも、ギャラリーでも値段が分かりづらいのがアート。それは高額だからではなく、数千万とか数億とかするジュエリーだって商品の横に値札が付いているのに、アートは「ASK US」なんです。それが、敷居が高くて買いづらいと思われている理由のひとつですよね。

小山:ギャラリーで展覧会をするのは、アーティスト側から見るとひとつの表現の場であって、そこでお金のことを話すのは……、という日本的なところもあったりしますが、海外でもプライスリストは出ていないですよね。

太田:値段が出ていないのは、ギャラリーと高級なお寿司屋さんぐらいなんてことを言う人もいますが、価格が変動していくところもまたアートの特徴でしょうか。店に置かれた瞬間に値段が定まってしまう一般商材と違うところですね。

小山:プライマリーであったとしても、それがセカンダリーになったり、美術館に展示されることで売れたり、需要が多いときに値段が高くなったり、価格は常に変動するのがアートなのです。

 

ブロックチェーン実装への道のり

施井:ブロックチェーンとアートは相性が良い、アートの商習慣はすごく変わっているというのがこれまでの話でした。そこで、僕らは冒頭で述べた作品証明書を共通化することにプラスして来歴を自動で管理したり、同時に流通の管理もできるようになったら良いのではないかと考えています。

アート・ブロックチェーン・ネットワーク(ABN)は、パブリックチェーンを使って実装しています。私たちはstartbahn.orgというサイトを運用しますが、これはブロックチェーンネットワークに繋がっているひとつのプラットフォームにすぎません。ABNは僕らがつくりますが、僕らが潰れてもシステムは残り続けるように設計しています。そういったアートのインフラを整備した上で、各プラットフォームで共有したい情報は連携し、サービスが繋がっていくものにしていこうと思っています。

作品証明書はどのサービスからも発行でき、繋がっているすべてのサービスと互換性があり、それによって履歴は自動的に残ります。展示、修復、鑑定の履歴など、売買以外の作品の価値や評価、信頼に関わる情報も自動的に記録していくことを考えています。作品証明書の管理ができるようになれば、流通をどんどん増やしていけるようになると思っています。

その点でひとつ強調したいのが、僕たちはグーグルやアップルのようになろうとしているわけではありません。例えば彼らだったら、上の図のABNのサーバーや情報は独自で管理して、繋がった人には情報を提供する代わり広告を出すというビジネスモデルが想定されます。

しかし、いちばんの大きな違いとしては、あくまでもパブリックなサービスなのでABNそのものではビジネスができないということです。そこで、図にあるように点線で繋がっているABNの外からブロックチェーンで繋げるときにマネタイズできる仕組みをつくりたいと考えています。

太田:その履歴を書き込むのは誰ですか?

施井:基本的にはサービスごとにアプリケーションがあるとイメージしていただければいいと思います。実際に動き始めるのは秋ぐらいで、そこから実装が増えていきます。

太田:オンラインではなくセカンダリーのギャラリーで売買されるときは、誰かが手入力するんですか?

施井:最終的に全部が電子化されることが望ましいんですけど、そもそも暗号通貨すら普及していない段階です。まずはどこかのサイトでブロックチェーンに繋げてもらうことを推奨するなど、過渡期であるのは確かです。

小山:ブロックチェーンが権威を持つためには結構時間が必要ですか?

施井:そうです。ブロックチェーンの世界が難しいと言われているからスタートアップが入る余地があります。新しいことを始めるには法律の壁、テクノロジーの壁もありますが、リテラシーの壁というのがいちばん大変で、ブロックチェーンについて言えば、個人情報がぜんぶさらされるのではないかと誤解されているかもしれません。

みんなが使えば使うほど利便性が増しますが、スタート段階で参入してもらうための設計が難しいので、最初のうちに入ってくれた人に対して見返りがあるような仕組みづくりは考えなければと思います。

太田:いまのところ、ブロックチェーン技術を取り入れるのは、セカンダリーの方が需要が多いんですね。私もときどきアート作品を買いますが、ほとんどがプライマリーギャラリーからです。真贋や来歴とかが分かるようになったら、セカンダリーで買う動機付けにもなるのかなぁと思います。その他に、学校、ギャラリー、美術館、作家、ユーザーにとってのブロクチェーンのメリットや意味は何ですか?

施井:美術館のマネタイズの方法は、入場料収入やグッズをつくったり、寄付金、助成金などがメインです、作品を購入するためのインセンティブを増やしたいと考えています。ユーザーに対しては、売却しなくてもインセンティブが得られる仕組みを、ブロックチェーンでできるんじゃないかなと思っています。レンタルできたり、副次的なインカムゲインがあったら、プライマリーギャラリーにとっても嬉しいですよね。

倉庫に保管しているだけになると二次流通を阻害することもあるので、精巧な二次データをつくって公開することも考えられます。VRが10年、20年ぐらいするとかなりのレベルで実用的になると言われているので、本物の作品が展示されなくても見せられる機会ができます。そのあたりのインフラを整えつつ、インカムゲインが得られて、いろんな人に情報をシェアできる仕組みをつくっていきたいと思っています。例えば小山さんのギャラリーの展示をVRで世界中から体験できるなど、リアルなものとそれを精巧に体験できるデータそのものが、商材になる可能性もあります。

太田:すごく魅力的に感じてきました。

アート市場活性化の切り札

小山:二次流通だけで見ると、日本ではとても売りにくいのは、海外のようにオークション会社があまり成立していないというのがひとつあります。転売で儲ける人たちがいる一方で、コレクターと呼ばれる美術をお金として考えたくない人も多い。そういう人たちは倉庫に作品を眠らせたまま亡くなくり、相続した奥さんや遺族には価値がまったく分からず、どこかに消えていきます。

アメリカで売買がものすごく盛んなのは、自分たちが買ったものを価値が上がった時点で売って、また違うものを買って回転させているからです。バスキアを見ればよく分かります。50万円で買ったものが、1000万、2億、50億とどんどん値が跳ね上がっていく。最近、日本の60年代の美術が高い値段で世界に売れているから日本のなかのマーケット全体のお金は増えていると思うんだよね。そのお金がどこに行っているのか分かりませんが(笑)。そのお金で、また新たなアートを買ってほしいですね!

太田:ブロックチェーンでそこを紐解けるようになりますか?

施井:そうですね、大量にコレクションがあるのに、現状ではそれを融資の担保にすることはなかなかできません。そういったときにブロックチェーンで来歴が出てくると融資も審査が通りやすくなる可能性はあります。小山さんがおっしゃったように、短期的な売買ではなくて長い目でアートの価値をつくっていく鑑にならないといけませんね。

小山:アメリカの美術館はMoMAにせよ、メトロポリタンにせよ、グッゲンハイムにせよ、ぜんぶ違う価値観を持っている。いろんな流派があって価値をつくってきていますが、日本の場合は役所が運営しているので、そうすることに対して長いスパンで考える努力が足りないような気もします。

施井:PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)という公的に美術館の運営を民間に委託できる制度があって、ある程度、マーケット自体をフリーにしてくれてはいます。良い意味でクリーンな循環をつくっていくために、政府も頑張っている感じはあるので、最終的にインフラの支えになるものをブロックチェーンでできたらいいですね。

小山:アーテイストに関して言えば、アメリカはプライマリーもセカンダリーもギャラリーの数が多いけれど、日本は少ないから価値が付きにくい。

施井:仮想通貨も似たところがあって、1800を超えるコインの種類があり、ビットコインなんかは高騰して基軸通貨になっているので半永久的に需要と供給があると思うんですけど、末端のコインのなかには年間ひとりしか買われなかったりするものもあります。そうなってくると価値はどうやって生れるんだろうと疑問に感じます。

小山:年間ひとりしか買わないコインがあるとしたら、それは価値になるんですか?

施井:将来的には値段が高くなる可能性はもちろんあります。ビットコインも2009年に発行されて3、4年はかなり地を這っていました。ここ6年で数千円から200万円の世界に行ったのは、アートとすごく似ているなと感じます。

太田:ただ、ビットコインの場合は、ほとんどが損得で価値が決まるんだと思うんですけど、アートの場合は投資目的の人だけでなく、むしろその作品とか作家が好きで所有したい、後世に残したいなど、他にもいくつかの強い動機があると思います。

施井:小山さんの有名な言葉がありますよね、「アートは株券よりも美しい」。

太田:名言ですね。私もよくどのアートを買ったら損しないかと聞かれるんですが、損得だけ考えるんだったら金融商品を買ったら良いと思います。でも、アートにはそれとは全く異なる喜びや楽しみがある。

施井:自分が所有する喜びもあるけれど、モナリザがルーヴル美術館にあることによる経済効果となると、作品への還元だけでなく、株券とは違う価値がまたあるでしょうね。ブロックチェーンは、いろんな人がいろんな挑戦をしている段階なので、2、3年中に広がっていって身近な社会実装が出てくるんじゃないかなと思っています。

 

スタートバーンの新規性

タジリ:私からも質問です。誰かがスタートバーンと同じものをつくる可能性があるなかで施井さんの優位性はどこにありますか?

施井:そもそもABNは公共のものなので優位性がなくても連携できる設計になっています。しかしブロックチェーンに繋げるのは高度な技術が必要なので、その技術提供をするところでマネタイズしようと思っています。

もともとの考え方は、アートの世界って顧客情報が重要なので仮に世界中のアートのサービスを繋げたいと思っても、オークションハウスは顧客情報は絶対に見せたくないと思うんですね。ギャラリーにもそういうところがあると思うんですけど、ブロックチェーンで作品の諸情報とか来歴だけでも共有したら、みんな幸せになってマーケットが拡大しますよという発想です。そこが公共的なので、他者が同じことをするメリットは、あまりつくらないようにしています。

施井:とはいえ、今年の秋に世界中に構想を発表するので、似たようなプロジェクトが出てくるでしょう。そのなかで、作品証明書をカスタマイズして二次流通を管理するところは、まだ世の中にはないので新規性があると思っています。 

僕らはいろいろな工学的なテクノロジーを使ったものを用意していますが、アートの世界で250年以上対峙してきた、「証明書と作品が本当に紐づいているのか」という問題と本質的には変らないと思っています。

タジリ:実際にどうやって真贋を判断するのでしょうか。

施井:例えば、10年後にいまの時代で非常に信頼性が高いとされているオークション会社の大不正疑惑が発覚して偽物でした、みたいなことになったときに、30年後の人が来歴を見てそのオークション会社が載っていたら怪しいと思うわけですよね。情報を客観的にどんどん記述しておいて、それが良いか悪いか、偽物と本物かは、それを見た人が判断する形にしたいです。

 

日本のアートを変えるには

タジリ:会場からの質問の時間を設けたいと思います。

質問者1:福岡でアートフェアをやっていて、アートの歴史自体が日本やアジアから生まれたら良いなと思っています。小山さんにお伺いしたいんですけれど、アートの歴史をつくっていくうえで、どこを動かすとそのロジックをつくれるのでしょう。先ほどの例で言うと、美術館が作品を貯めてきた歴史があったということですが。

小山:アメリカはアートの歴史がないときに、19世紀にヨーロッパの絵画をどんどん買って、それがいまメトロポリタンにいっぱい入っているわけですが、いちばん大事なのはアーティストをたくさん出すこと、かつ世界にアーティストたちを評価させる人がいることです。アメリカでは抽象表現主義のクレメント・グリーンバーグという評論家がいて、作品を世界巡回させたことによって、美術の国になった。

MoMAに僕たちが行く理由はマチスとゴッホを見るため。それはいまも変らないけれど、アメリカはパリにもロンドンに負けないぐらいアーティストが集まり作品を生み出す場所になっています。そこに美術館があってその価値をつくり出し、評論家がいて世界中に影響を与えているという流れが、現代美術では圧倒的です。

質問者2:弁護士をしています。上映権、ライセンスで作品を運用したり、アマチュアの作品を積極的に売っていくことなどで、アートの観点は変わりますか?

また、ブロックチェーンなどで情報をオープンにしていくことでアート業界を変えていくことになるのでしょうか、あるいは違う場所をつくっていくことになるのでしょうか?

施井:ひとつめの質問については、ブロックチェーンで管理が可能なものにに著作権が入っています。国ごとに著作権のルールがありますけど、ブロックチェーンは1対1の契約を記録することができるので、著作権のライセンス使用についての契約を個別に交わすことができます。例えば、所有権の一部をブロックチェーンで販売することによって、作品と同時に権利も売ることも容易になるんじゃないかと思っています。売買が良い還元に繋がって、マーケットを広げることをしていきたいです。ブロックチェーン上のスマートコントラクトに記述された契約は「スマート・リーガル・コントラクト」という呼び方をしますが、かなりのポテンシャルがあると思います。

施井:もうひとつの質問ですが、基本的にオープンにするのとはちょっと違って、アクセスを可能にするだけです。飛行場は世界中にあるけど国交のない国へは行けない。そんな感じで飛行場がどんどん繋がっていくイメージです。でも、国交がないとか、情報公開していないことは管理できません。

ただ、ブロックチェーンで顧客情報があらわになるという話ではなくて、情報はそれぞれのサービスの密室のなかでいつまでも残り続けるという考えです。ボトムレイヤーの入りやすいところにも入っていきながら、基本のビジネスと繋げることで拡張性をつけて、みんなで幸せになろうというモデルです。

タジリ:まだまだ話し足りないところですが、時間がきてしまいました。施井さん、小山さん、本日はありがとうございました。

Photographs by Kelly Liu
Text by Tomoko Sato

2019/8/15

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